社会問題小説・評論板
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- 透明人間
- 日時: 2023/01/04 22:38
- 名前: 咲間 (ID: GXT1iSs/)
ごく当たり前の日常を送っていると、時に人は問題にぶつかる。
学園生活であれば、スクールカーストやいじめに不登校。
一般社会でいえばジェンダー問題、人種差別、ネットによる誹謗中傷、
生活困窮者、その人その人個人個人で与えられた問題を如何に解決し
如何に幸せに暮らすかをその生涯において求められ、死んでいく。
そんな、代り映えのない世界に産み落とされたとある少年の話をしようとおもう。
これを目にする君がどんな考えを持とうが、苦虫を嚙み潰そうが、泣こうが
喚こうが知った事じゃあない。これは、どこかで起こりうる現実でもあり
地域団体、及びすべてがフィクションかもしれない。唯々、それだけだ───。
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- 1話 ( No.1 )
- 日時: 2023/01/04 23:12
- 名前: 咲間 (ID: GXT1iSs/)
淡い薄桃色の桜の花弁が舞い散り、それぞれ真新しいランドセルや
学生服に袖を通して両親と共に学校へと歩んでいく純粋無垢な子供たちを
横目で見送りながら、少年は鬱屈と背を屈めてゆっくり歩いていた。
その少年の名前は、愛澤結弦(まなざわゆづる)。
駱駝色の髪をしていて、小柄で痩せっぽちな体格をしており
周りを歩く同じ制服を着た男子と比べると一廻りも小さく目立っていた。
顔立ちも男前、というよりかは西洋人形の様な整った甘い顔である。
重たい学生鞄を肩から下げているが、体が小さいせいで
鞄の方が目立ってしまっている様で彼自身もそれを気にしていた───。
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鬱屈とした重い足取りで、彼は学校の下駄箱へと向かう。
辺りを見渡し時折不安げな表情を浮かべながら、歩いていく。
高まる胸の鼓動、そして滴り落ちる汗。
一歩一歩踏み出す度に、締まっていくような喉の感覚。
「…っ、大丈夫…大丈夫、だよね。」
胸のあたりを摩りながら、通り過ぎる人より若干遅く踏み出す。
自分にそう言い聞かせながら、下駄箱にたどり着いた結弦は
履いていた薄汚れた運動靴を丁重に脱ぎ、下駄箱へ入れようとした。
その瞬間であった。
「ゆ・づ・る君♪」
後ろからそう低い声がそう聞こえた途端結弦の顔から血の気が引いた。
靴を持ち上げた手が震え、冷や汗がだらだらと泉の様に湧いてくる。
今すぐにでも逃げ出したい─、耐えられない─と頭が警鐘を激しく鳴らす。
「あ~あ、俺の事そんなに怖いわけぇ?」
へらへらと、低い声の主は結弦にそう尋ねる。
結弦も何か返さないといけないと思っているが震えて声が出ない。
「まあ、そうだよねぇ~」
声の主は、気が付くと結弦の隣に移動していて
片耳に銀色のピアス、着崩した学ランの下に赤パーカーを着ている。
染髪された明るい金色の短髪─、どっからどう見たって不良の姿にしか見えない男。
「…な、な…なん、何で…雪柳…君がいるの?」
「あは、名前覚えててくれたんだ結弦君」
彼の名前は雪柳乃蒼(ゆきやなぎのあ)、結弦の住む地域では有名である
暴力団関係者の父親と水商売の母を持つ根っからの問題児と呼ばれていて
他の人間も関わりたがらない”極悪非道”の不良だ。
「まぁいいや、教えてやるよ」
雪柳は、厭らしく口角を上げながら結弦にこう返した。
「…結弦君には、今年も対象(いじめられっこ)になって貰うからに決まってんだろ」
結弦は、気が遠くなるような感覚がした─。
- Re: 透明人間 ( No.2 )
- 日時: 2023/01/07 10:25
- 名前: 東雲 琥珀 (ID: VTAeNKAC)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no
すごく良い小説ですね‼憧れ…
- 2話 ( No.3 )
- 日時: 2023/02/20 15:27
- 名前: 咲間 (ID: GXT1iSs/)
雪柳は立ち竦む結弦を見て、にたりと口角を上げる。
「去年は面白かったねぇ~♪」
その言葉を聞いた瞬間に結弦の脳裏には、雪柳のしてきた行為が過り始めた。
校舎裏に呼び出され、多数の不良仲間に囲まれ理由もなくカツアゲをされたり─、
同じクラスの女子から貰った手紙をびりびりに破かれたり、
ネット上に雪柳の仲間に押さえつけられ苦しみ藻掻く動画をアップロードされたり。
LINEでひたすら陰口を投げられたり、クラスの人に無視されたり───。
彼の父親の権力と、母親の関係もあってか学校に訴えたものの強くは対応してもらえず…
何なら、教師でさえ潰されるのが怖いからと見て見ぬふりをされて散々だった去年。
救済措置としては何だが、進級したのでクラス替えで
雪柳とは離して貰えるものだと神にも縋る勢いで願っていた筈だったのに。
現実とは、中々上手くいかないもので…。
「なんか言えよ結弦」
冷たく低い声色に、ヒュッと喉が鳴った。
そして、獲物を狙う獣の様な眼光。
「い、嫌…」
「あ?聞こえねぇよ」
抵抗する声を掻き消すように、雪柳はそう言った。
ぐるぐる、と焦燥感に掻き立てられどんどん鼓動は早まるばかり。
思わず下駄箱に掲げていた手を下ろしその場に座り込んだ。
呼吸もままならず、浅く息が詰まる様な感覚に襲われる。
「…あ~あ、そんなビビるこたねぇだろうがよ~」
結弦の様子を見て拍子抜けしたのか、呆れた様な声で雪柳はそう言った。
そしてそのあと、座り込む結弦の目線に合わせて中腰になり背中を摩ってきた。
その手に震えて、更に結弦は気が遠くなりそうになる。
”…散々な目に合わせてきたのに、なんでこいつは…?”と
声にならない声を心の中で反響させながら─。
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