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Re: 【色々】透明サイコロジー【短編】 ( No.188 )
日時: 2010/12/21 22:54
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: abkT6QGo)

 今思い返せば、こいつが壊れるのは何も初めてでは無かったんだろうということに気付いた。こいつは、俺が見ていない間にも少しずつ、少しずつ欠片を零して、何か失っていたんだろう。そう考えると、俺の肩を抱くこいつの存在がひどく不確かなようで、俺はこいつの胸の中で、ただ歯がゆい思いをするしかなかった訳で。

 「シズちゃん」

 いつものあだ名も、今では呼ぶなと声を荒げる力も無い。むしろ、ここで怒りを露わにしたって、こいつは何もせず、ただ微笑するだけだろう。こんなが予想できてしまう自分は、少し空しい。

 「夢を、見たんだよ。シズちゃん。……夢を、夢を」

 知るかよ。口をついて出たのは、たった4文字だった。上ずった声だった気もするが、俺にはそれが精一杯だ。後を続けるように、急いで口を動かす。たかが夢だろ。こいつの言うことを貶して、俺は口を噤む。もうこれ以上何も言えないとでもいうかのように。

 「…………そうだね、夢だね。夢なんだ」

 満足そうに笑うこいつの表情が、妙に苦しそうに見えた。それが傍観できる位置に居たのも、こいつを抱きしめることができる位置に居たのも、俺だけだから。だから俺は、そんなこいつを抱きしめてみる。

 「あぁ、そうだ。夢だ、臨也」

 決して解かれることのない夢に、浸りながら。




 ■目覚めなくて、