BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【色々】透明サイコロジー【短編】 ( No.192 )
- 日時: 2010/12/25 23:05
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: abkT6QGo)
「メリークリスマス!」
ドアを開けると、視界が真っ赤に染まった。いや、ホラー的な意味合いではなくて。単に目の前にいる人物が赤い洋服を纏っているってだけで。赤い洋服は、クリスマスに子どもがいるお宅に不法侵入し、貢物を置いて逃げるという某お爺さんが着る公式衣装。この色あせた田舎町には妙に不釣合いだということがありありと分かる。
だから、俺はついつい本音を口にしてしまった。
「帰れ」
「こんな可愛いサンタに何もせず、お前はこの寒い中帰れと! テメーふざけんな!」
と、眼前の相手——彼女(注意、男)である佐久間はぎゃいぎゃいと喚き始めた。頼むから近所迷惑なのでやめて欲しい、とは口に出せないまま、佐久間の暴言をBGMにしてみた。
……そう言えば、何でここにいるんだろうか。疑問解明の為、佐久間から視線をそらし(正直面倒だし)、開いているリビングのドアの先を見つめた。カレンダーを一瞥し、また佐久間に向き返る。ふむ……12月24日————あぁ、今日はクリスマスか。
「だからって、口が悪いサンタは御免だ……」
「どこがだへタレ源田!」
「どこか分からないのか中二佐久間!」
気温が低いせいか、午後11時の常闇に白い白い息がよく映える。近所の皆様方はもう睡眠中らしく、灯りらしい灯りは俺の家の光のみとなっていた。つまり、今の時間帯は、人が歩き回ることもなく危険。更には1日の中で一番寒いってゆーことで。
「てか何で来たんだよ、こんな夜遅くに。そんな格好してたら寒いだろうが。しかも————」
「…………俺さー」
————サンタの仮装って初めてしたんだよな。
俺の説教を聞く様子もなく、佐久間は指先で自身の衣服を摘んでみせた。玄関の蛍光灯に黄に照らされた赤は、オレンジ色のような妙な色彩を放ち、俺は目を細める。
「クリスマスっつってもさー、親2人共は仕事であんまりいねーし。そのせいもあるけど、あんまりパーティみたいなのもしたことねー」
「……ほー?」
「あ、だからってクリスマスパーティしたことねぇってのは無い。帝国入ってから、毎年の様に鬼道さんがパーティ企画してくれてたし」
「あー、あれは楽しかったな」
「だろだろ」
にひひと快活に笑う佐久間は、まるで今までの思い出をひとつひとつ噛み締めているように幸せそうだ。話の先を聞くために、俺は正面にいるサンタに向かって相槌を打つ。……だけど、話の先を続ける佐久間の瞳に、後悔や悲しみの色が射すのを、俺は見逃さなかった。
「けどさー今年は鬼道さん、いないだろ? そのせいか知らねぇけど、辺見も成神もクリスマスパーティ開かねぇから。……だからさぁ」
俺がやって来た訳だ、とサンタはどこか寂しそうに微笑んだ。俺は何も言わなかった。ただ、その笑みと背景の暗闇を瞳に映して思想する。こいつのこの行動を、どう受け入れるべきかと。こいつをどのように幸せにすれば良いのかと。
「……あー、まぁ、何だその————」
静かな夜空を横目で眺めて、しどろもどろに言葉を送る。現在地点の俺にとっての、精一杯のクリスマスプレゼントを。
「————佐久間、メリークリスマス」
俯いていた顔をゆっくりと上げると、眼帯のサンタは驚いたように目を丸くした。そして、にっこりという表現が似合う、かなり嬉しそうな笑顔になる。
「源田! ……メリークリスマス!」
佐久間の笑顔が、月明かりに照らされる。一方俺の方は、冷たい佐久間を両腕で抱きしめながら、深く息を吐いた。
聖夜の中、俺の吐息はゆるやかな曲線を描き、消えようとしていた。
■そんな貴方にメリークリスマス!
(サンタさんは欲しいものをくれたのです)