BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- いちお日英ですふっはー ( No.284 )
- 日時: 2011/04/14 22:49
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)
- プロフ: うみねこの某アンソロからネタを拝借。
「おやおや、貴方はとても綺麗な瞳をしてらっしゃいますね。アーサーさん。貴方の瞳は、綺麗な薄緑色をしています」
「……そうか?」
俺にとっちゃ、お前みたいな黒い目の方が綺麗に見えるけどな——小さく呟くと、アーサーは褒められて赤くなる顔をそっぽへ向けた。アーサーはそれでも少し居心地というか、何ともいえないようで自分の金髪をわしゃわしゃとかき立てる。
照れた様子の自分より年下の青年を見ながら、菊は柔和な笑みを浮かべた。彼らが座談している場は、菊の家の縁側だ。春特有のぽかぽか陽気な太陽の日光が、うとうととした眠りを誘う。
「ふふ。爺の瞳なんて、老いのせいで老眼鏡が手放せませんよ」
「その容姿で何てこと言ってんだ、まだまだ現役だろうが」
「お褒め有難う御座います」
くすくすと目を細めて笑う菊の視線は、優しげで、だがひたすらに冷たいものが底にあった。あたたかさと冷たさの両を含んだ視線は、じっとアーサーの顔に——正確には、アーサーの双眸に縫いとめられている。アーサーは菊の異様な視線を感じ取ったのか、頬から朱が消えていた。
「……そんなに綺麗か? 俺の瞳は」
ぽつり、金髪の青年が呟いた言葉は単純な疑問だった。桜がひらひらと舞う姿を目にしながら、菊はその言葉を全く動じることなく受け止めた。
「はい、とても。年老いた私から見ても羨ましいくらいに、憎いぐらいに——ね」
「じゃあ、いるか?」
菊の優しげな瞳が、一瞬だけ悲しげな色をみせる。そしてその後、ふるふると細い首が左右に振られた。否定の意思表示だ。菊は着物の袖を口元へと寄せると、物憂げな表情でやはり優しく微笑む。
「生きている貴方が持つその瞳こそに、最大の意味があるのですよ。私は何も貴方の眼球が欲しいのではありませんからね。物理的な何かが手元に残って、私とこうやって縁側でお話できない貴方がいても————私は、貴方の瞳の価値を知ることはないでしょう」
薄く微笑んだ菊の表情は幸せそうだった。アーサーは菊の言葉にうんともすんとも言わずに、庭に咲く桜の木を一瞥した。桜は未だピンクのドレスを着て、周囲へ幸福を振りまいていた。
その幸福を手のひらに乗せて、アーサーは呟く。
■ぐりぐりぐり。
(この指でその綺麗な瞳えぐりだしてあげる)
「お前は残酷な奴だな」
「あれあれ、そうでしょうか?」
——生きている俺がお前に渡せないものを、欲しがろうとするなんて。