BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【色々】透明サイコロジー【短編】 ( No.318 )
- 日時: 2011/05/04 15:07
- 名前: 華京 ◆wh4261y8c6 (ID: CbXJUujt)
- プロフ: 憎しみにまみれるアニキが見たかった>>四国を潰したかった
————……
『満足か、元親』
岩に背を預け、へたり込んでボロボロになっているのに、微笑を浮かべながら言う家康。
俺はそんな家康に腹が立って仕方がなく、碇槍を地面につきたて、すがるようにして立つと、吐き捨てるように言った。
『これは仲間の敵、野郎共の無念だッ!』
息があがっていて思うようにいえなかったかもしれない。
だが、家康にその言葉は届いていたようだ。
『そうか、なら……』
ふわ、と微笑む。
なんでお前は微笑んでられるんだと思った。
家康は微笑んだまま言う。
『元親、憎しみは人の目を曇らせる。お前は自分が感じた事を信じて、生きて来たじゃないか……ワシの知るお前はそんな自分を疑わない……誇り高い男だ……』
諭すように、優しく言われる。
真摯な瞳をぶつけられ、俺は心の中に何故か罪悪感が沸いてふい、と目を逸らした。
家康が、拳を握り、俺の方に突き出す。
傷だらけの拳。
血が滲んでいた。
それは、俺のつけた、傷。
震えて、もう手を上げることすら辛いはずなのに。
『……元親、それをもう一度、思い出そう。友として、ワシは、それを、願う、よ。』
視線を家康の方に向け、一歩踏み出す。
だが、家康の手は俺が取る前に空しく家康の膝に落下した。
俺はそんな家康を見てやる瀬ない気持ちになった。
そんな気持ちを振り払うように頭を振って、野郎共のところへ向かう。
徳川家康亡き後、最後に残るは、毛利元就。
アイツのみだ。
————……
「四国を壊滅させたのは、徳川では無い。」
毛利が感情を込めずにそう放った。
自分の顔が強張るのが分かる。
「徳川の仕業と見せかけた、全て、この我の策よ。」
俺は、とんでもねぇ事をしちまった。
自分への怒り、毛利への怒りが体を支配する。
俯き、震える手で碇槍を握り締め、歯を食いしばる。
怒りで火照った体を戦場の鉄の香りを運ぶ風が撫でていった。
「毛利元就……ッ!! 人の心が分からねぇ糞野郎……!! てめぇだけは、この俺の手で……」
顔を上げ、相変わらずの能面顔でこちらを見る毛利の目をしっかりと見る。
「ぶっ殺す!!」
毛利は俺の言葉を鼻で笑った。
「人の心が分からぬ……? それは貴様の方だろう。」
びくり、と体が震える。
「我は他にも策を用意していたが、間抜けな貴様が一つ目の策にはまりきったおかげて日の目をみなかったわ。」
何も反論できない。
しゃくだが、まったくもってそのとおりだ。
「四国急襲も、元は貴様が不用意に城を離れたときにおきた事……徳川は貴様と相対して見に覚えが無いといってなかったか?」
毛利の言葉にあのときの家康の声と、顔を思い出す。
「元親!? どうしたんだこんなところで!!」
心底嬉しそうな声と笑顔。
「なんの事だ? 元親?」
ワケが分からないといった様子の家康。
————「元親、憎しみは人の目を曇らせる。」
「いえ、やす……いえやすは……」
ぐ、と歯をくいしばる。
「長きに渡り友と呼んだ男の言葉を信じなかったのも貴様だ……」
「毛利ィッ……お前は……ッ!!」
俺の言葉を遮って毛利は言った。
「浅はかにも我の思惑一つ分からずにいたのも貴様……何一つ、心とやらが分からずに、部下と、友を死に追いやったのは貴様の方ではないか。」
見下したような目で指を突きつけられる。
「全く貴様は、本当に名乗り通りの……日ノ本一の鬼畜生よ!!」
唇をかみ締めすぎて、唇が裂けて血が出た。
「毛利……お前の言葉、全て甘んじて受け入れるッ……!!」
ギリ、と碇槍を握り締める。
目から涙が零れ落ちた。
だがそれを気にせずに碇槍を振りかぶる。
「だが後悔するのは後だ! テメェは……この俺の手で殺す!!」
怒りと悲しみを全てぶつけるように毛利に向かって碇槍を振り回す。
毛利はそれを鼻で笑って輪刀でそれを受け止める。
俺の碇槍とアイツの輪刀がぶつかって火花を散らせた。
「殺す、だと? 貴様がその言葉を言おうとはな!」
心底おかしくてたまらないといった様子で言う毛利。
「馴れ合いをよしとする貴様が、殺意に塗れる日がついに来たか。」
毛利の台詞に俺は違和感を感じた。
「そんな台詞をわざわざ吐くってことは、毛利、結局心の底で羨ましかったんだろ?」
俺の台詞に毛利はぴたりと一瞬動きを止めた。
そして、その能面面を怒りに歪めた。
「羨ましくなど、ない!」
「自分の生き方と真逆だから俺を否定することで自分を肯定しようとしてるのか?」
言葉に詰まる毛利。
俺はそんな毛利に炎を纏った碇槍で脇腹を薙ぐ。
毛利は紙一重で避けて輪刀を盾のように構える。
「この地に!」
俺は勢いのついた碇槍をそのまま毛利につきたてようとする。
だが、それは見えない壁によってはじかれた。
体が後方に飛ぶ。
そして、後方には。
笑顔の、毛利が。
「この地に!」
見えない壁にはさまれ、その間を飛ばされ続ける。
暫くすると壁が消えて、地面にたたきつけられた。
立ち上がる事すら出来ず、近くに飛ばされて床に突き刺さった碇槍を握り、床にへたり込んだ。
申し訳なさと不甲斐なさに涙が止まらなかった。
「すまねぇッ……家康ゥ……すまねぇッ……野郎共……」
毛利はそんな俺を見て、くだらないと言わんばかりに、鼻で笑った。
「テメェだけはッ……」
力を振り絞って立ち上がり、碇槍を振りかぶって毛利に一撃を食らわそうとする。
「何ッ!?」
毛利は驚いた顔をした。
が、すぐに身を翻らせて俺に一閃を食らわせる。
「はははは……」
乾いた笑みがこぼれた。
「わかっているさ、俺が、全て悪いって事ぐらい、な」
たたらを踏んでよろよろと後ずさる。
「家康……」
微笑んで、倒れる。
とてつも無い眠気が襲う。
このまま眠ったら、もう二度とこの目を開ける事はないだろう。
でも、その眠気に逆らえそうにない。
最期に見た毛利の顔は、苦虫を噛み潰したかのような顔だった。
毛利は倒れた元親を見て、輪刀を下ろす。
彼が目覚めることはもう二度とないだろう。
俯いて、つぶやく。
「最期まで、虫の好かぬ男だ。」
————彼等は絆を求めて逆光の中戦う……
—————照らす光こそが黒幕とも知らずに……