BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

高←律 ( No.328 )
日時: 2011/05/07 09:38
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)
プロフ: りっちゃんが、「自分に高野さんを癒せる権利があるのか」悩む話。

 君のけがを治そうとしたんだ。


 ■君のけがを治そうとする俺のちょっとした気持ち。



 十年前のことはよく覚えていない。迫られて、緊迫した場面の中でしどろもどろに搾り出した本音は、彼の目を丸くさせるのには十分だった。だって本当なんだから、と言いたいところだが、それはまるで自分の罪を軽くしようと頑張って言い訳するようなことだから、俺は無言にならざるを得なかった。

「…………すいま、せん……」

 彼の瞳が前髪に隠れて見えなくなって、ようやく彼の束縛から放たれたと思ったときに出た言葉は、罪悪感からの謝罪。何で俺は謝ったのか、なんて覚えてない。だけど、何故か俺は彼に一生癒えぬ傷を与えてしまっていた過去の自分のことがどうしようもなく気に食わなかった。何で、何でちゃんと別れることが出来なかったのかと、性にも無く過去を責めるほどに。

(きっと、高野さんの傷を癒すために横澤さんや周りの人とか仕事とか——いっぱいのものが、絆創膏や包帯になってその傷を癒そうとしていたんだ)

 傷は必ず、痛みを生む。なら、痛む傷があるなら治せば良い。治すためには絆創膏を貼ったり、包帯を巻いたりすれば良い。もっと悪化しているならば、薬を飲めば良い。じくじくと血を滴らせるその傷に、ゆっくりと触れて、痛みを確かめながら絆創膏を貼れば良いのだ。

(……でも、でも)

 ——でも、俺はその絆創膏すら持ってないのだ。