BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

前→真(性別反転) ( No.333 )
日時: 2011/05/14 00:58
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: uHvuoXS8)
プロフ: たたみでどさりな話。片思い。

 前川さんは苦笑して言った。
「転校生は酷いねぇ」



 ■君の言葉は難解過ぎるよ



 それはまるで私を責めているようでそれでいてそう呟く自分自身を責めるような物言いだったから、私は瞬きを繰り返すしかないんだけど。ふわりと畳の香りが鼻腔をくすぐり、懐かしさを私に与える。背中に当たる感触は少し柔らかく痛みを和らげるような優しさを持っていた。フローリングばかりの前の家とはだいぶ違う。
「ほんとうに、酷いねぇ」
 前川さんは短い黒髪で見えない顔と共に、ゆっくりと私の肩の辺りへと表情を埋めた。自分より背の高い前川さんが、小さい私をまるで人形のように大切に大切に抱きしめるものだから、私はついつい驚いてしまう。彼はいつも飄々とした落ち着いた人物のはずなのに、どうしてか今の彼の存在はとてもあやふやで揺らいでいるような気がしていた。
「その気がないなら、俺にこんな思いを与えないで欲しいものだね」
「その気って?」
「さぁ」
 くつくつと笑いを噛み殺す彼の表情は見えないけど、彼の薄い胸板から伝わる温かさからは、どうにか彼の思いを読み取れるような気がした。
 そんな、夏のある日だった。