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Re: 【色々】透明サイコロジー【短編】 ( No.335 )
日時: 2011/05/17 20:14
名前: あゆ ◆x/5HQXA.iA (ID: KIi4ddQs)
プロフ: さめちゃん、参照2000突破おめでとう!

くらり、と。
 軽い目眩。たゆたう青色の世界に、沈んで行く。
 髪や服がぶわぶわと水をはらんで鬱陶しい。胸元のリボンが解けて、水圧に抗うように上へ上へと登って行く。少しくすんだ色の熱帯魚のよう。

 こぽり、小さなあぶくが口から溶け出て消えた。


+


「……ゃん! ——なちゃん!」

 白い蛍光灯。さっきまで居た世界と、まるで違う。
 目蓋を開けたら、きっと先輩が居る筈だ。でも開けたく無い。今更言い訳をするのは面倒くさいから。
 でも目を開けなかったら、この人は泣くんだろうな。

「……何ですか」
「何ですかって……! 何ではこっちだよ、いきなり……、いきなり……っ」

 予想通り、泣いていた。
 綺麗な深緑の瞳を潤ませ、ハンカチでごしごしと目の周りを拭う。
 なんでプールに飛び込んだりしたの、と涙で少しくぐもった声で言った。


「だって、人魚姫は泡にならなくちゃ、いけないでしょう?」

 答えは、これで十分。


+


 あるところに、人魚のおひめさまが居ました。
 彼女は、人間のおうじさま————ではなく、おひめさまに恋をしました。
 しかし、おひめさまはおうじさまのことが大好きでした。

 悲しんだにんぎょひめは、おうじさまをころそうとしました。
 しかし、ころせません。おひめさまの大切なひとだと、分かっていたからです。

 にんぎょひめは、泡になって海にきえてしまいました。



                                  :にんぎょひめ