BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【色々】歪んだ傷跡にさよならを贈る【短編】 ( No.362 )
- 日時: 2011/07/18 22:55
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
「神田って、胸小さいですよね」
アレンが何気なく呟いた一言から、言い合いが始まった————近くに言ったジョニーから、そうラビは聞いた。犬猿の仲であるアレンと神田が、いつにもなく激しい争いをしているからどうしたかと思えば……何だ、そんなことか。
ラビは内心呆れながら、食堂のど真ん中で唸りあう二人へと歩み寄っていった。
■結論がのろけなんて酷すぎる>某白髪少女
予想通り、激しい攻防が繰り広げられていた。まぁ、イノセンスが使われていない辺りは、お互い限度を弁えているらしい。かと言って、喧嘩の規模が抑えられているかといえば、そうでも無いが。
ラビはぽりぽりと頭をかきながら、互いに叫びあうアレンと神田の前に立った。
「だから言ってんでしょーがこの蕎麦女! 私のこの胸はあくまで自前のものであり豊胸手術なんていうセコくましてや神田のようなぺったんこが行うようなつまらないことは何もしてませんから! そのまな板で大根でもすったらどうですか?」
「はっ、そんな馬鹿でけぇ胸してるから頭の中までおかしくなったかこのモヤシが! 胸のとこばっか成長してるから、背は伸びねぇし私よりも弱いのかもな! エクソシストから転職して、娼婦にでもなればどうだ!」
「…………」
頭いてェさ——ラビがこめかみに手を宛がい、ぽつりと呟く。その表情は呆れ半分困り半分というところだろう。
ラビはいがみ合っている二人を見て頬をひきつらせた。
「……あんさ、ユウとアレ————」
「ラビッ! 話を聞いてくださいッ!!」
「おい馬鹿兎ッ! 話を聞けッ!!」
「…………」
再び沈黙に陥るラビ。待ってましたとばかりに、アレンと神田はラビに向き、自分の主張を聞けと拳を握り締めてアピールしてくる。
……神田はともかく、アレンは左手にイノセンスが寄生しているため、もしも愛しい恋人である神田から話を聞こうとすると、「差別です」と今握っている左手が自分の頬に炸裂するかもしれない——ラビは冷静に察知し、アレンへと視線を投げかけた。話をしろ、と。
「……チッ」
「ふふん、じゃあまずは私からですね!」
「短めに頼むさ……」
神田が若干イラついて舌打ちしたが、そこは心の中で謝っておくラビだった。アレンは勝利を感じたのか、さっきまでの怒り顔から一変し笑顔になった。
すぅ、と空気を吸うアレン。淑女(似非)である彼女は、豊かな胸に片手を当て、微笑みを崩さずに話し出した。
「私が『神田って、胸小さいですよね』って言ったんですよ」
「アウトさァァァァァァァ!!」
「どこがアウトだク.ソ兎ッ!」
げしぃっ、と神田のおみ足がラビの側面へとクリティカルヒットした。いてェさ!とラビが床へと倒れこむが、神田は怒った猫のようにふーふーと威嚇している。神田の怒りの源となる言葉を吐いたアレンは、あらあらと余裕を称えたまま不思議そうに倒れたラビを見ていた。
「そしたら神田が、『うっせェ、白髪モヤシ。脳みその栄養が胸ばっかに回ってるから、突拍子のねぇこと言い出したか』とか抜かしたんですよ! ナメてませんか? だから私は神田に大きな胸の良さを分からせてあげようと涙を呑んで力説していた訳ですよはい私の悪いとこなし神田が百パー悪い!」
「あぁ!? 何てことほざいてんだテメェ! テメェが私の言葉に『じゃあ神田の胸が小さいのは、脳みそに一生懸命栄養が回ってるからですかね? それにしては学力が残念ですけど☆』とか言ったんだろうが似非淑女が!」
「ははははその通りじゃないですかぁ!? そもそも神田は思い違いをしてますよ! 胸ってのはね、男の欲望満たす為に存在するんですよ。ならば勿論、胸は大きい方が良い! でも神田は小さいですよね何でかなぁあぁそうか蕎麦ばっか食ってるからですかねぇ!」
「素敵な娼婦の考え方だなオイ! 残念だが私はエクソシストをしている訳で娼婦なんて望んじゃいねえんだよ牛女が! 後、蕎麦を馬鹿にしてんじゃねえぞ! テメェのその胸はカロリーの寄せ集めだろうが私の胸はちゃんと健康の上に成り立っているちゃんとした胸だ!」
「貧しいですけどね☆」
「何だとホルスタインモヤシ!」
「アレンですってば。……ときにラビ」
——え、まさかここで俺ッ!?
二人の壮絶な言い合いに付いていけなかったラビは、そこでぎょっとした。
自分の名を呼んだアレンはと言えば、まるで自分の豊かな双丘を見せ付けるように胸の下で腕を組んでいる。柔らかそうなそれを見せ付けられ、ラビは近くに神田がいるにも関わらず、ごくりと生唾を飲み込む。
「ラビだって、付き合ってる女は胸が大きい方が良いですよねー? 色々便利ですし。貧しい胸だと何も挟んだり触るとこもないですけど、おっきかったら色々出来ますよー。色々と☆」
「……言い方がやらしいんだっつーの」
口では悪態をつきつつも、神田の表情が悲しげに歪む。
アレンの言葉を聞き、自分の身体にコンプレックスを感じたようだ。ちらりと一瞬、気弱そうな視線が自分に向けられていることを、ラビは感じた。いつもはぎろりとつりあがっている切れ長の瞳は、やや下がり気味になっている。
しゅんとした神田を視界に入れ、勝ったと言う風な満面の笑みを浮かべているアレンを一瞥し。
やがて、ラビはぽつりと呟いた。
「んー……俺、ユウならどんなんでも良いさぁ」
「っ」
神田が息を呑む。意外な答えだったらしい。アレンは、まるでラビが言う言葉など分かっていたような雰囲気で、にやにやとラビの告白を傍聴している。
「俺、確かにユウの外見綺麗だと思うけど。でも、やっぱ俺はユウの内面に惚れたさー。……だから、正直ユウなら何でも良い。ユウの胸の大小なんて、どーでも良いさ」
「……ラビ……」
ラビの真摯な態度に、神田が感動したというように羨望の眼差しを送る。ラビは(俺に感動するユウ可愛い)と心中で悶え————そして、ラストに“衝撃な一言”をはっきりと口にした。
「そ、それにさッ!!」
「? それに、何ですか。ラビ?」
まだ続くのか、とアレンが続きを促す。気付けば、ラビは頭を下に下げていて、表情が見えないようになっていた。しかも、唯一見える耳はというと、まるで彼の髪の色のように真っ赤で———ー
「————ユウの胸なら、彼氏である俺が大きくすべきだと、お、思うさッ!」
「………………っっっ!? ×●△☆+ッ!?」
ラビの衝撃発言に、神田が大きく飛び退く。その顔は、ラビの赤さが移ったかのように赤面している。口はぱくぱくと何度も開閉し、かけるべき言葉が見つからないようだ。当のラビは顔を下げたまま無言。
あまりにも気まずい——というか、恥ずかしすぎる(カップル二人にとって)現状に、アレンは遠い目をして独り言を零した。
「…………落ちがのろけなんて……惨すぎますって……」