BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 伊達やし♀、捏造伊達妻 ( No.371 )
- 日時: 2011/08/09 23:05
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- プロフ: 襲われてる状況が好きとかそういうマニアックなアレでは無k
あまりに俺の名前を繰り返すから。あまりに俺に笑顔で接してくるから。あまりに俺の後ろをついてくるから。あまりに俺に優しすぎるから。……どれもこれも気に食わない理由だ。気に食わないのは眼下のこいつだけのせいではない。こんな強行手段を使ってしまった自分に対してだ。
「あまりふざけるなよ、八代」
両手首を一まとめにされ、胴体を晒すような格好をしているのに。自分の貞操の危機だというのに、目の前の女は薄い笑みを称えていた。
水面にたゆたっているような、愉快そうな笑みだった。
■だから、私を受け止めて
ADEMという名の研究所の、とある会議室で。薄暗い室内の中、俺は十ほど歳の離れた部下を机の上で押さえつけていた。部下——八代は、男に襲われそうになっているというのに、微笑をたやさなかった。
「……ふざけてませんよ私」
「ふざけているから言っているんだ」
「ふざけてたら、こういう時に顔真っ青にして泣きますよ」
ひたり、と淡いピンクの唇が弧を描く。自分が今どういう状況にあるかは理解しているらしい。それでも抵抗しないのは、“大好き”である男が相手なせいか。
「お前は、好きな男なら襲われても良いっていうのか」
「好きな男っていうか、伊達さんならオーケーって感じですけどね」
「阿呆か、貞操観念というものが無いのか。最近の若い奴は」
「……好きな人ですから、良いんですよ」
軽薄そうな笑みが、切なげな色を含む。亡くなった妻はこんな笑い方をしなかった。いつでも柔らかい笑みを浮かべて、嬉しい時には笑い悲しい時には泣きそうな顔だった。
だけど、こいつは違う。妻とは似ても似つかない笑い方を持っている。嬉しい時も悲しい時も、常に同じように笑っている。笑いという仮面をかぶって、自分の感情をひたすらに隠そうとしている。
「好きな人? 俺がか? 昔、妻がいた男で、お前より十歳程は年が上だ。しかも年齢よりも老けて見えるとよく言われるしな」
「っはは、それぐらい知ってます」
「怒るぞ」
怒る、と宣言した割にはどうも————底なしの闇を持っていても、まだ俺の前では笑おうとするこいつのことを、嫌いになりきれない自分がいた。かと言って、若いこいつのことを好きだとも言ってやれない。
沈黙が降りる。八代は視線を逸らした俺に向かって、やんわりと微笑んだ。いつもと変わらない、秘書官としてのお前と変わらない、その笑顔。
「伊達さん」
呟いたのは、俺の名前。
今まで何度も繰り返されてきたその名前には、恋焦がれるような熱と、泣きそうな切なさが溢れていた。何だとは問い返さずに、俺は組み伏せられたままの八代を見下ろした。出来るだけ、突き放すような視線で。
「良いんですよ、私は別に」
——その言葉に、両手首を拘束をする手が、緩んだ。
はっと気付いた時には、八代は俺の肩にゆるりと手を回して、抱きしめるようにしていた。明るいブラウンの髪から、甘い香りがする。
「……私、後悔してませんから」
後悔とは、何についてだったのだろう。答えを知っているくせに自分に問いかける。
八代のその言葉に安堵する自分がいるだなんて、自覚したくなかった。背中に回された細いこいつの腕は、振り払うには弱弱しすぎた。