BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

たぶん、百合。中編だと。 ( No.373 )
日時: 2011/08/09 23:44
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
プロフ: スペクタクルPのThe Beast.です。自己解釈なので注意。

 一人ぼっちの生活に慣れ始めてきて、でも少しのささくれを感じていた、ある日。一つの風が舞い込んできた。栗色のベリーショートの髪は、今まで眺めてきたヒトよりも、健康的で美しく見えた。
 ある日現れたあなたは、小さなリュックサック以外に何も持っていなかった。形の良い唇に、アーモンドの形をした大きな瞳。私のような豪華な服とは違って、どこもかしこも汚れがついていたり擦り切れていたりと、好きにはなれなかった。
 ——でも、貴方は何も持っていなかったくせに、私が望む全てを持ってた。


■はじめまして、けものさん。


「な……何、何で勝手に庭に……!?」

 その時ちょうど庭のお花を愛でていた私は、突然の来訪者に目を白黒させていた。突然すぎて、いつもは王冠で隠している角も隠す暇がない。栗色のその子は、私の方を一瞥して、さらに私のお城をまじまじと見上げた。「ふぅん」何かを探っているような雰囲気だった。

「ふ、普段、周りの人たちは私のことが怖いから……私のお城に入ってこないのよ!? な、何で貴方はいるのよ、獣のところに何で来るの!」

 栗色の貴方は私の慌てた声に何も言わなかった。
 ただ、私が積み上げておいたレンガを容易く飛び越えると——ゆっくりとした動作で、表面を指先でなぞったのだ。そして、気付いたように私に言った。

「……これ、悲しいくらいつめたいね。ずっと——ずっと、寂しかったんだね」

 初対面の彼女に、優しげに言われた瞬間。
 私の中の獣が怯えた。体中のざわざわとしたものが駆け巡り、どうしようもないものがこみ上げてきて、彼女から距離をとって離れた。急いで家の中から王冠を取って来て、頭の上に飾る。彼女の身長を目方で測ると、私とこの王冠を合わせたぐらいで背の高さは同じぐらいになるはず。
 焦って、取り乱れているんだと自覚はしていた。でもそれをどうしても認めたくなくて、私は彼女を貶した。

「何が悲しいよ、寂しかったって、何がよ! アンタみたいな汚い服をまとった奴には分からないだけでしょ、この美しい全部が! アンタみたいにへらへら笑ってる奴には、この素晴らしさが分からないだけよ……ッ!」

 ダッ、と踵を返して、私は彼女の前から逃げ出した。
 ぱたんと閉じたドアだけが、唯一私の心の崩壊を食い止めてくれているような気がしていた。







 戦争が、始まった。
 ヒトが紡ぎ上げた欠片たちは、”アイ”と呼ばれるらしい。この前、ヒトの新聞に書いてあった。隊服を着た一人のヒトに、周囲のヒトたちが折り重なるようにして抱きしめ、喜んでいるように泣いている。

(……何で、戦争に行くのに泣いてるんだろ)

 ——戦争に行くというのは、名誉なことじゃないの?
 ましてや、行くことで周囲の人間が何か反応してくれるのなら、それはすごく嬉しいことじゃないか。一人ぼっちの私は、戦争に行くことの意味すら分からず、ただ、周囲の人間がいるそのヒトという生き物を羨んでいた。
 私は、孤独に作り上げた僕の城から、栗色の彼女を見てから一度も出ていない。
 ドアを閉ざした私のプライドは、それ程重いものだったのだ。

(だって、私は秀麗じゃない。それに、私は死なないわ。こんな身体を持っているなら、何だって出来る。たとえ、一人ぼっちでも)

 私はその時、一人で何でも出来る気になっていた。