BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- たぶん、百合。中編だと。 ( No.374 )
- 日時: 2011/08/10 00:03
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
- プロフ: スペクタクルPのThe Beast.です。自己解釈なので注意。
(隠し事をしてました、失うのが嫌でした)
■どうも、かわいいけものさん。
「やっほー、ちょっと失礼」
朝のティータイムを行っていると、どんどんと外から無作法にドアがノックされた。不思議に思いながら、ドアを開けようと重い腰を上げると——こっちが開ける前に、外から思い切りドアが開かれた。
見ると、いつぞやの栗色のベリーショートの女だった。
私はテーブルの上に紅茶を置いていることも忘れて、思い切り机上を叩いて怒鳴り散らした。
「や、やっほーって……何よ、な、何で入ってくるのよ!」
「んー、あ、ほら。街の掲示板に、住居者募集中ってあったから」
「それはもう半世紀も前のものよ!? 何でそんなのにつられてるの!」
「あ、そなの? ……ははぁ、ごめんね。間違えちゃったかな?」
「大間違いよ!」
怒った様子の私に、栗色の彼女は柔和な笑みを浮かべて聞いた。
「でも、このお城に住んでるの君だけでしょ?」
「…………う、うう……そうだけど……」
久しぶりに獣のように唸る。彼女は私の悔しそうな顔に対して薄く微笑むと、ぽんと両手を合わせた。明るい声が、今まで孤独だった私に耳に甘く溶けて行く。
「んじゃぁ、一緒に住んで良いかな? 勿論、ちゃんと宿代に見合うお手伝いや納金はします。料理も一応一通り出来るし、何なら朝昼晩三食作っても可!」
「……の、ノウキン? カ? よく分からないんだけど……」
「ありがとう! それじゃぁ朝ごはん作るね! 紅茶一杯じゃぁお腹減るでしょ、ちゃんと食材持ってるから。卵とパンとサラダとオレンジとぉ……そんぐらいで良い?」
「え、それは多過ぎ————ってコラァ! 私はまだここに住むことを許してないっての!」
私の怒号に「え、そうなの?」ととぼけたように笑う貴方の笑顔。
——やっと、やっと現れたお城の初めての住人。
孤独感から解き放たれた私に贈られている初めての愛に、獣である私はただ戸惑うばかり。
彼女は、やがて作り終わった朝ごはんを前にぽつりと私に聞いた。
「……あのさ、前見た時も思ったんだけど——こんな大きなお城に一人ぼっちって、悲しくないわけ? てか、寂しくないの?」
「っ、」
彼女の核心をつく言葉に、息を呑む。目の前で湯気をたてる目玉焼きは美味しそうなのに、作った彼女には苛立ちと怒りがみるみるうちにこみ上げてきた。
気付けば、さっきまでの和やかな雰囲気を壊すように叫んでいた。
「同情なんかはよしてよ! アンタなんかに……お前にわかってたまるかよ! 私が今まで生きてきた長い悲しみなんて……ッ、アンタみたいな奴に、分かる訳がないっ」
「あ、ちょっと待ってよ! ごめん、変なこと聞いて」
「……は、離してよっ、何で腕掴むのっ。良いから、良いからさっさとどこかに行かせてよ!?」
「いや、このまま腕離したらどこ行くか分かんないし」
叫んだ後、何となく気まずくなって逃げようとした私の腕を掴んだのは、貴方。握ったその手は、孤独に浸り続けた私には熱いぐらい温かかった。
「う、うるさいッ! 猫じゃあるまいし、すぐに戻ってくるわよ!」
「痛っ! な、何で齧るのさ!? 腕に噛みあとついた!」
「あぁ、貴方が飛び上がったせいで紅茶零れたじゃない!? ……も、もう知らないっ、こんな城貴方が好きにしたら!? 私は別のところにもっと良い城造るから!」
「ちょっと待てって、暴れるなって! ほらもう、机の上ぐちゃぐちゃになるじゃんか! 綺麗な角も、黄味のせいで黄色になっちゃう!」
齧って、零して、暴れて。初めて体験するぐちゃぐちゃの——ヒトとの触れあい。怒りもむかつきも全部ぐちゃぐちゃにしたそれは、私の心に光をともした。
——綺麗な角。あの時、初めてそんな風に言われた。
今でも大切に持っているその言葉は、胸の奥底にしまっている。
たとえ私がどれだけ貴方から離れようとも。
それでも、あなたは私の欠片をひろって、逃げようとする私の腕を掴んでた。