BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

潤→やし♀→伊達 ( No.376 )
日時: 2011/08/10 12:59
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
プロフ: 伊達さんにふられちゃった八代ちゃんみたいなアレ

 パフェの白玉にぱくついた時、彼女は言った。

「私、好きだよ。潤君のこと」
「…………そりゃ、どーも」



■君のその言葉ではロジックは完成しない



 明るいブラウンのセミロング、しかもスーツ。タイトミニ。優しげに保たれた口角は、笑いを象っている。しめたネクタイを盛り上げる膨らみは、うちの妹には到底届かない。
 胸はある程度あるし、ぎゃあぎゃあと喚くタイプではない。自分よりは、ちょっと年上。でも二つ三つぐらいだから、年上趣味と考えればオールおっけぃ。
 こんなに素敵な条件の相手なのに、何故か好きだと言われても納得出来ない自分がいた。

「どうしたの? あれだけ好き好き言ってたくせに、私から好きだって言ったら黙り込むなんて、性格悪いなぁ」
「いやね、俺大好きですよ。八代さん可愛いし、綺麗だし。俺の性癖にも付き合ってくれそうだし。結婚の線も考えたいぐらい」
「可愛いも綺麗もほとんど同義語じゃない? ていうか、性癖に付き合う気はないけどね。せいぜい蝋燭と三角木馬ぐらいかな」

 さらりと道具について述べる彼女の瞳は、諦観——その一言が見えている。いつもだったら愉快そうな笑い方をしてるのに、今日は何だか悲しそうで。
 さっき会った時に、目元が赤かったのも一因だろうか。ファミレスの前で呆然と立ってたから、お誘い(ナンパとも言う)しただけなんだけど。

「そんだけSMについて知ってるなら、良いと思うんすけど。俺は大歓迎」
「そう。それじゃぁ、付き合っちゃおうか」

 ぽろりと彼女の口から零れた言葉に、俺は驚愕した。
 ——あれ、確か八代さんって好きな人居たんじゃなかったっけ?
 冷たいクリームが唇につく。「ついてるよ」と八代さんが目を細めた。「あ、どうも」と気のない返事をして、舌なめずり。決して目の前の彼女が食い時だヒャッホゥ!!とか考えてないので安心するべし(と俺は伊織に言い訳してみた)。

「付き合うって……今まで俺のこと、散々付き合えないって言ってきたのに? てか、好きな人居たんじゃないすか?」
「……………………」

 長い沈黙。彼女の表情から笑いは消えない。
 まるで、笑うことで俺の言葉から逃げているような、そんな錯覚。

「……良いんだよ、潤君」

 カチャリ——反射的にテーブルに置いたスプーンが、金属音を奏でた。まだコーンフレークが残っているパフェの容器は、クリームの白とベリーの赤が入り混じって、ピンク色になっている。

「好きなのは、もう終わったから。だから、この新しい好きっていう感情が、君への思いさ」

 噛み締めるようにして搾り出された言葉は、俺にとっちゃぁパフェよりも甘く、重いもの。困ったように微笑む彼女の唇からは、俺と付き合いたいという思いがぽろぽろと溢れ出てくる。本来の俺ならば、それに冗談と愛を交えて返さなくてはならないのに——

(——なのに、何でこんなに痛いんだろう)

 泣きはらした後のような瞳をした彼女から紡がれる、今までの“彼”への愛を打ち消すような「好き」という言葉。
 喜ばなくては、ならないその言葉。

(何で、八代さんの好きって言葉は、聞いててこんなに痛いんだろ)

 赤い瞳をした八代さんは、何も言わない。
 全てを包み込むようなその笑顔には、彼女自身の悲しみも包み込んでいるんだろう。

「……なーんであの人、こんな良い子ほっぽっちゃうんでしょーね」
「え、何?」
「いや、何でもないです」

 にへらと彼女に笑いかけて、俺はパフェの最後の一口を飲み込んだ。
 甘い甘いクリームが喉に流れる瞬間、厳しい顔の彼が思い浮かんだなんて、彼女には言わない。