BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- あくまで紫ネズ 女体化 ( No.386 )
- 日時: 2011/09/13 17:20
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: wzYqlfBg)
目の前に突き出されたのは、銀色のスプーン。スプーンの窪みには、雪を想わせる白い粉が一匙分あった。
「…………やばめの、白い魔法の粉?」
「違う。ただの砂糖だ」
持ち前の黒髪をさらさらと揺らして否定する彼女は、困惑したように眉をひそめた。
四年前も可愛いと思ったけど、四年後の現在はその可愛さが刃の輝きのような危うげな綺麗さに変化している。クールで頭脳明晰で、さらには美人な彼女はそういうことを口に出したらかなり怒ることを私は知っていた。だから、あえて口に出さない。
「? 私が、これを食べれば良いの?」
「あぁ」
無邪気な風体を装い、首を傾げる。椅子に座った状態の私と、立ってスプーンを突き出している彼女とじゃあ、背丈がだいぶ違う。ただでさえ私の方が背が低いのに、とちょっぴり不満。
彼女は頷くと、私の唇に銀色を押し当てた。ひやりという冷たさと、唇を割っては言ってきた砂糖の甘さが重なる。
それが彼女の願いならば、と私は微かに唇に付着した砂糖を舌で舐めとると、スプーンを「はぐっ」と口の中に収めた。じわりとした甘さ、粉っぽいぱさぱさとした感触がアンバランスで、気持ち悪いような美味しいような、妙な感情に囚われる。
「……甘い、んだけど」
「そうだろ。甘いだろ、紫苑」
もごもごとスプーンをくわえたまま反論めいたことをした。すると、ネズミは満足そうに微笑んだ。私の困ったような表情に気付いているのかいないのか、スプーンを手放してゆったりとした表情になる。
口の中は砂糖のせいで甘さだけになり、少し気分が悪くなりそうだった。水が欲しいなと思ったけど、彼女の満足そうな笑顔の前に、私は何も言えなかった。
「甘いもの、いっぱいあげるからな」
「何で?」
「お前は、私の大切なものだからだ」
ふわりと肩を抱きしめられる。細い彼女の体は、私が抱きしめ返したら折れてしまいそうだ。白い肌は艶かしく、頭を撫でる時にさらりと滑らかなのを感じた。
淡い桃色の唇は弧を描き、私の耳元に寄せられる。
「苦いものも、辛いものも、酸っぱいものも。……大事なお前には、そんなものやらないから。おいしくて甘いものだけ、お前にはやるよ。だってお前は——」
——大切、だから。
そうしてまたにこり、と微笑まれた。観客を魅了するその微笑に、私は歓喜や幸せを感じることは出来なかった。まるで首を絞められる時のような、息苦しさを覚えたのだ。
(あぁ、彼女は宝物の愛し方を知らないんだ)
甘い香りがする。花の香りを放つ黒髪をお返しのように撫でると、彼女は体をぎゅっと密着させてきた。柔らかい感触がしてるようなしていないような、と言ったら彼女は怒るだろうか。
ふいに、大きな声で笑いたくなった。献身的な彼女の体を、滅茶苦茶にしてやりたいような衝動が、突き上げてくる。
しかし私は“優しい紫苑”なので、真っ白い羊の顔をして、彼女の体を抱きしめ返した。
「甘いものだけやるなんて、ただの飼い殺しじゃないか?」
彼女に聞こえないように呟いた言葉は、全然、甘くなかった。
■甘党彼女。