BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 黒♀→青 ぐちゃり ( No.391 )
- 日時: 2011/10/08 16:34
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)
——もしこの背中を踏み潰したら、どうなるんだろう。
前を歩く彼の背中は女の私と違い、大きく広い。以前、熱中症で倒れてしまった時におぶわれたこともあるので、女の子一人ぐらい軽く運べることは発見済みだ。
今日はスカートで、しかもその下にはスパッツも何も履いていない。バスケをする時に履き替えるのが面倒で、いつものタイツも無し。この姿で、思い切り足をあげて彼の背中を蹴り上げたら、きっと中身は丸見えだろう。
(……大きいなぁ)
やっぱり、彼は大きい。背の高さも、才能も、センスも、何もかも。改めて目の当たりにすると、自分と比較してひどく落ち込む。光と影という言葉は自分からよく使う。しかし彼の前だと、影という言葉を使うことに躊躇いを覚えた。
足の長い彼の歩幅は、私と比べて大きい。だから私は、一緒に歩くたびに何度も小走りするはめになる。ぼんやりと考えている私を放っておいて、彼はすでに階段を下り始めていた。「待ってくださいよ」聞こえていないだろうな、と思うけれど言わずにはいられない。
「青峰君、待ってください」
階段の上から、先に下り始めていた彼を呼び止めた。呼びながらも、急いで彼のところへと歩を進める。段差に気をつけようと足元に集中していた私は、階段の途中で、眼下の彼を直視してしまった。
(あ、)
そこで、彼の背中を正面に構えてしまった。
さっきまで、思い切り踏みつけてやろうと考えていた背中。才能に見合うプライドと、強さを併せ持つ彼の背中だ。
——あの背中に私の靴跡を残してやったら、どんなに愉快だろう。
妄想のような想像をする。私のキックなんて意にも介さずに、むしろ私の方が足を痛めそうだ。それを見て、彼は怒りそうだ。スカートでそんなことするな、だとか、痛ェだろうがテツ、だとか? またあの時のようにおんぶしてくれるのが、一番嬉しいかもしれない。
(ぐっちゃぐちゃに、あの背中を、)
いや、もしかすると私の予想外の行動を受け止めきれずに、そのまま階段を転落してしまうかもしれない。目を大きく見開いて、口をあんぐり開けて。階段の下まで真っ逆さまに落ちた彼は、体中の骨という骨を折って、もう今年のインターハイ出場は無理になるかもしれない。ヒキコモリというのになって、一生死んだ目をして過ごしていくかもしれない。
(そしたらきっと、彼は生きがいを無くして、)
——あぁ、どうしよう。
頬が熱くなっていくのを感じる。私は今、彼が崩壊することを考えて、最高に幸せな感情に浸っている。頭から血を流して転がっていく彼の姿が見たくて、たまらない。どきどきと胸が拍動を打ち、指先が冷たくなってゆく。
ローファーの先を、緩慢な動作で彼の背中へと向けた。生白い膝が、スカートのひらひらから現れる。靴底は丁度、彼の背中へ。ちょっとしたスナイパー気分だな、と失笑。私が狩人なら、彼は獲物なんだけど。
「何してんだ、テツ」
「………………あ」
我に返った私の前に立っていたのは、今この瞬間、私の脳内で一度死んだ男だった。片足をあげて静止した私を一瞥すると、彼はだるそうに口を開いた。
「……おせェんだよ、置いてくぞ」
「そんなこと言いますけど、いつも青峰君、私のことちゃんと待ってくれてますよね」
「うっせェ。……ほら、行くぞ」
不機嫌そうに、眉間に皺が寄る。浅黒い肌をした頬は、引き攣った笑みを象っている。私に指摘されたことが、当たっていたのかもしれない。不器用な彼の行動に、頬が緩む。
くるり、階段をさらに下りようとしたところで、彼は振り向いた。怪訝な表情で、私を見つめて。
「……なぁ、テツ」
「何ですか、青峰君」
「お前、何でさっきからずっと笑ってんの?」
——あれ、笑ってましたか?
頬に手をやると、たしかに。唇が半円を描いていた。さっきから、というと彼が私のために止まってくれた時からだろうか。とすれば、私が笑っていた理由は一つ。……そして、若干落胆している理由も、一つ。
「さぁ、わかりません」
「何だそれ」
くくっ、と彼が笑いを零す。
私は同じように笑おうとしたけれど、残念な気持ちが滲んで、薄く微笑むことしか出来なかった。
(あぁ、チャンスを失った)
■ロスト・チャンス
「そういえば、さっきパンツ見えたぞテツ」
「そういうことはミスディレクションしておいてくださいよ」
「意味わからん」