BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ゆた→かな ( No.398 )
- 日時: 2011/11/17 19:08
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)
- プロフ: よくわからんぞ家康ゥ!!
「男同士だ」
「外国行けば良いじゃん、外国」
ぎゅ。肩を掴む力が強まった。
壁に押し付けられて、さらに両肩を掴まれたままで。背中は教室の壁にぴたりとくっ付いている。もうこれ以上、逃げ場なんてないのだ。目の前の彼を見て感じた。
「外国なぁ……俺達、まだ学生だろーが。そんな金ねーよ」
「バイトしようか。前みたいに、祐希がやってたみたいにさぁ」
「……面倒くせぇ」
悠太の顔は髪の毛が垂れてよく見えない。俺の腰辺りの高さで俯き、両腕を突き出すようにして俺の肩を掴む悠太。その体勢はまるで、両腕にしか力が灯っていないみたいで、肩からその先は力が抜けてぐずぐずになっているようだった。さっきからゆらゆらと頭部が揺れている。
放課後の教室は人気が皆無で、夕日が静かに俺と悠太の横顔を照らしていた。廊下に足音が響く様子もないようだし、今日は皆早く帰ったのかもしれない。
「それにほら、アレだ。俺、外国行ってもすらすら外国語喋れねーし」
「喋れないの? だいじょぶ、俺もたいして話せない」
「大丈夫じゃねーだろそれ。…………てかさぁ、そもそも俺達、——」
「——ねえ、要」
ふいに名前を呼ばれて、俺は言葉を続けるタイミングを失った。
冗談めいていた悠太の温度が、急に降下していくのを肌に感じる。悠太が顔を上げ、今の今まで隠れていた表情を露わにした。
何人もの女子を虜にしてきたであろう端整な顔立ち。オレンジの光が射す瞳は真っ直ぐに俺を射抜き——そのまま、ゆっくりと口を開いた。
「あと何個、否定の材料があったら……要は頷くの?」
「っ、え——っ、と……」
「俺は後何回、何々だから駄目だって言われなくちゃなんないの?」
一瞬だけ、悠太の表情が泣きそうになった。だがそれも、ほんの零点、何秒かぐらいだ(そんな短い時間の中でこいつの表情の違いがわかってしまう俺は本当にこいつに惚れてるんだろうけれど)。すぐに普段のぼんやりとした顔に戻ってしまう。
「何回言ったら、要は俺の気持ちをわかってくれる?」
「何回、っつっても……」
俺が言い淀むと、突然、悠太の首がかくんと折れ、また頭を垂れてしまった。髪の毛が動きに沿い、さらりと宙で揺れる。同時に、俺の肩を圧迫していた力がふっと消える。どうやら、悠太が両腕の力を抜いたようだ。両腕がようやく自由になる。
しかし自由になったのも束の間で、すぐに俺の両腕は悠太の腕によって行動不可能にされる。
さっきまで痛い程に俺の肩を掴んでいた腕は、今は俺の体を緩く抱きしめていた。恋人がするみたいな行動に、俺の心臓は鼓動を高鳴らせてしまう。慌てて言葉を紡いだ。
「おい、悠太、お前ちょっと、おい」
ぐいっと無理に腕を除けようとするけど、悠太の抱きつく力は強過ぎて、上手く除けることが出来ない。
「……要」
「なっ、何だよ」
再び、名前を呼ばれた。それに応えようとすると声が裏返ったので、俺は妙に恥ずかしくなってしまう。かっかと熱い頬を動けないこの状況でどう隠そうかと俺が考えている間に、悠太はぽつりと呟いた。
「あと、何回?」
——ああ、またその言葉かよ。
苛立ち混じりに振り払った右腕で、俺は真っ赤になっているであろう顔を、拭うようにして隠した。
■How many times do you need a chance?
「……さあ」
(答えはもう分かってるんだ)
(でも答えを出したくないのも分かっている訳でありまして、)