BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ひた←←神 百合 ( No.402 )
- 日時: 2011/12/01 23:13
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)
- プロフ: 化物語に改めてハマりんぐだよおいちゃん……(´・ω・`)
「ごめんなさいね、神原」
素っ気無く放り投げられた言葉を受け取るのには時間が必要だった。
慌てて言葉を拾った時には、愛する彼女はすでに私とはだいぶ距離をとっていた。とて、とて。踵の音を踏みしめるように、彼女は私を真っ直ぐ見つめながら離れて行く。
——やめて、行かないでくれ。
声を出して彼女の行動を否定しようとする、が、そこで私は声を出せないことに気付いた。喉に何か得体のしれないものがつまったような、曖昧な痛みを感じる。喉を塞がれているというのに呼吸は出来ていて、私は立ち眩むこともなくちゃんと立っていられる。声を出せないということと同時に、ここは夢の中なのだとも理解する。
そして、苦笑。現実と対して変わらない彼女の行動は、私の傷口を抉り、嘲笑を浮かべるのには十分だった。
——あぁ、私は夢の中でさえ、彼女の手を掴めないのか。
いや、掴もうとすれば掴めるのだ——私は声を出すのを諦めて、自分の考えを改めた。なぜなら、私と彼女の間隔は確かに広いのだが、私のこの自慢の脚力を使えば、すぐに詰められそうなぐらいの距離だったからだ。
理解した次は、実行。人間はそういうものだろう。
私は先ほど喉を押さえていた左手を彼女の腕をとるために伸ばそうとし————異質さに、気付いた。
——あ、あ、……あぁ……。
異質さというのは、少々違うかもしれない。ただ夢の中の私にとって、その“腕”は随分と場違いなものに見えた。夢の中なのだから、リアリティはたいして重要ではないというのに。なのに——私の左腕は、現実と同じように————毛むくじゃらの獣の腕、だった。
現実の方がまだマシだ、と思う。だって、いつも私の左腕は包帯を巻いて、この毛むくじゃらが見えないようにしているし。改めて突きつけられた現実の欠片に、嫌悪感が宿った。
「あぁ、気付いたの?」
「……………………………………………………え、」
あ、声が出せる。
あまりにも簡単に喉のつっかえは取れたみたいだ。遮るものが無くなった喉からは、驚きと呼吸の混じったものが零れ落ちた。
戦場ヶ原先輩の言葉に応えようと、顔を上げる。視界に映るものが、毛に覆われた左腕から、戦場ヶ原先輩の端整な顔立ちに変わるはずだった————
————のだが。
「っあ、……あ、ららぎ先輩?」
気付けば、戦場ヶ原先輩の隣には、私の恩人であり尊敬すべき先輩である————阿良々木先輩が、平然と立っていた。ってか、え? 何で阿良々木先輩が? 彼の姿を視界に入れた瞬間、左腕が疼いた。嫉妬という感情が、どす黒く、より黒く私の心を燃え上がらせる。
阿良々木先輩の表情は、どこか達観したように、だけど寂しそうに、嬉しそうに、辛そうに、可笑しそうで。
私は、彼の表情に気をとられ過ぎていたのだ。
「ごめんな」
だから、彼の放った言葉の意味をすぐに理解出来ずにいた。「…………ふぇ?」夢小説の天然純粋少女のような反応をしてしまった。少し自己嫌悪。しかし自己嫌悪に浸っている間なんてなかった。
くるり。戦場ヶ原先輩がまるで長年連れ添った夫婦のような滑らかさを孕んだ動きで阿良々木先輩の腕をとり阿良々木先輩はそれに応えるように朗らかな笑みを浮かべて戦場ヶ原先輩と肩を触れさせて二人は私に当然のように背を向けてさらに遠くへと歩み出した!
そこまでの動作を網膜に焼き付けたところで、やっと私は声を荒げて、動くことが出来た。
背中には薄っすらと嫌な汗をかいていた。眼球がやけに熱く、周囲の目(と言ってもこの世界には私と彼女らの3人しかいない)も気にせず、泣いてしまう。
「や、やめてくれ! 戦場ヶ原先輩ッ!! わ、私はそんなのは、は——嫌、だ……」
あぁ、だからやめてくれ。
夢の中なら、幸せなままでいさせてくれ。
私の願いを嘲笑い、世界は私を傷つける。戦場ヶ原先輩たちは、悠々と“恋人”らしく寄り添って遠くへと歩いていく。
貴方のことが大好きで、愛して欲しくてたまらない私を置いて、だ。
阿良々木先輩は何も言ってはくれない。私の無様な泣き顔なんて意に介せず、向こうへと、さらに向こうへと歩いていく。
「待ってくれ、阿良々木先輩! 私が、わ、私が先に戦場ヶ原先輩のことが好きだったんだぞ!? 好きなのに、今でも、今でも大好きなのに——どうして貴方はそんな簡単に、私から戦場ヶ原先輩を奪うんだよ、なあ!!」
叫び、泣き、問い、怒り。
どうにかして戦場ヶ原先輩をこっちに向かせたくて、私は手を伸ばそうとした。でも、手を伸ばすことは私には叶わない。
私の視界の端に、例の毛むくじゃらの————獣の腕が、映りこんだからだ。
それを——獰猛な獣の香りが鼻を掠めた瞬時、私の両目からは滝のように涙が溢れ出てきた。とめどなく、濁流のように。
「 ! 、 !! 、 !」
何かを、悲しくて悔しくて苦しくてたまらない何かを。
吐き出した私に残されたのは、ただの獣の腕。
欲しいものを手に入れられなかった者に残された、ただの印だった。
■貴方が欲しかったもの、私が得られなかったもの、
(せんぱい、せんぱい)
(わたしはあなたのことが、いまでもだいす、)