BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

河→桶 のんびり ( No.411 )
日時: 2011/12/27 23:38
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)
プロフ: 桶河と言ったがありゃすまん、嘘だ




 背中越しに伝わる体温。対照的に、俺の体は指先まで冷え切っている。何でだろうか。……あぁ、冬だからか。しかも屋外にいるせいだな。脳内で自問自答を行い、溜め息をついた。
 遅い。かれこれ十分はこうして待っているというのに。

「後藤は何やってんだ……」
「たぶん、購買が混んでるんでしょうね。あぁ、知ってます? 最近、購買でめちゃくちゃ美味い菓子パンが出たらしくて。そのせいで学校中、そのパン巡って毎日乱闘中らしいですよ」
「へぇ」

 低い声が、後ろの方から聞こえる。顔は見えないけど(だって背中合わせだし)、きっとイラついてるんだろうなぁ。眉間にしわを寄せた桶川さんの顔を想像するのは容易い。元々怒りやすいし、それに俺や後藤は毎日のように桶川さんの怒声を聞かされてるし。

「だとしても、少し遅いですね。あの運の良さを含めても。……何してんだろう」
「知るか。あいつ、帰ってきたらとりあえず殴る」
「同意見です。こんなところで昼飯待ってるせいで、俺、体の芯から冷え切っちゃってますよ。桶川さんはどうですか?」
「………………」

 半分振り返って、笑顔で尋ねる。でも桶川さんは俺の言葉を華麗にスルーし、真逆の方向を向いていた。やっぱり、以前俺が裏切ったのが効いてるらしい。裏切った経験のある俺と仲良しこよしで会話をするのは、プライドが邪魔する、みたいな? つん、という擬音が似合うぐらい顔をそらしていた。

「桶川さん、返事してくださいよ」
「るせぇ」

 返事の催促をすると、不機嫌そうに顔をさらにそらされる。プライドが邪魔をする、という俺の推測は間違っていたようだ。結構、あっさりと返してもらえたわけだし。
 ——だけど、あっさり過ぎる。
 むずむずとした欲求不満と共に、反骨精神が頭を出す。そして、ちょっとした悪戯心も。

「桶川さ——————あ、ちょっと失礼しますね」
「あァ? 何だ失礼って…………ッ!?」

 桶川さんが俺の方に振り返る、その前に先手をうった。
 外気にさらされて冷たくなっている手で、桶川さんの頬に触れる。ぴくり、と一瞬びくつくところが純情だと思う。
 男子高校生、しかも番長の肩書きを持つ人には不釣合いな程に傷がなく、すべすべとした頬。慈しむようにゆっくりと撫でて、そのなめらかな顎のラインを指でなぞった。

「……あ、ほら。やっぱり、冷たくなってるじゃないですか」
 
 小悪魔なスマイルを浮かべて、「ね?」と同意を求める。数秒、桶川さんは仏頂面のまま黙って俺に頬を触られていた。けどすぐに手を払いのけられた。容赦ない一撃が俺の手を襲う。手の甲に、痛みと熱が走った。

「……痛いですよ」
「黙れ。本当なら後、二三回は殴ってるところだ」
「うわっ、辛辣ですね」

 眉間により深いしわを刻んだ顔で、桶川さんは立ち上がった。同じように俺も尻をはたいて立ち上がる。
 桶川さんの視線の先には、両手いっぱいにパンを抱えた後藤がいた。野菜とかチケットを脇に挟んでいるのは、あいつの運の良さによるものだろう。大きく手を振りやって来る後藤の腹に、さすが番長と言わんばかりの鋭いけりが入った。パンを空中に放り出して、倒れる後藤。桶川さんと俺は空中から落ちてくるパンを受け止め、ビニールを破った。

「おせェんだよ後藤!」
「あ、すみません桶川さん! いや、実は予想以上に人が多くて、しかも途中で食券拾って食堂行ってまして、そしたら食堂のおばさんに野菜と福引券もらいまして、そしたら——って、何か桶川さん顔赤くないですか? どうかしたんですかって……ん? 桶川さん、何で拳を握り締めて————ってギャァァァァァァァ!!」

 空気を読めなかった哀れな後藤の断末魔が、焼きそばパンを頬張った俺の耳に届いた。後藤より食べることを優先していると、しばらくしてその絶叫が止む。
 隣によろよろと後藤(傷だらけ)がへたり込み、残ったあんパンに手を伸ばした。ちらりと向こうを見ると、桶川さんはすでにパンを持ってどこかへ消えた後のようだった。畜生、邪魔しやがって。苛立ちを含めた視線を後藤に送った。

「…………なぁ河内、何で桶川さんあんなに怒ってたんだよ?」

 後藤は痛む右腕を抑えながら、俺に何気なくきいてくる。純粋なその顔を見ていると、何だか怒りのような、もったいなさというか、よくわからない感情が俺の胸を渦巻いたので。
 だから俺は、にっこりと口角を上げて言ってやった。

「さあ?」



■君の表情を掠め取った僕。



「生理じゃない?」
「ッッて河内てめぇ何言ってやがるゴルァ!!」
「うわァ! 桶川さんいつのまにッッ!?」