BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ゆう→かな ゆうき視点 ( No.412 )
日時: 2011/12/28 00:00
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: X9vp/.hV)
プロフ: きっと君は何一つ知らないんだ。なのに君は俺に殺されるのか、


 手の中で白い喉はびくびくと痙攣していた。白い喉はまるで魚のようだと思っていたが、じゃあ俺はさしずめ漁師、いやそんなに良いことしてないよねと思い直す。緊張感と恐怖がこめかみを汗で濡らしている(こんなに汗だくなのは、体育祭以来だ)。

「……かなめー」

 じたばたともがくのをやめて、手中の魚の名前を呼ぶ。ぴくりと彼の手が動いた気がするけれど、こんなに衰弱してるんだからそれはないか。改めて、自分の手はゲームや漫画以外の使用法があるんだということを思い知らされた。こんな貧弱な奴の力なのに、ねぇ。

「かは、っ……っは————ゆ、き……」

 少し喉への力を緩めるとすぐに要は息をしようと口を開ける。そのぱくぱくと開閉する口に舌入れてキスしてやったら、どんな顔をするんだろう。要は俺の舌を噛み千切ってしまうかもしれない。想像すると、背筋が粟立った。
 こうやって要の首を絞めるとき、いつも思う。
 きっと俺に殺されるその瞬間まで。……要は、俺の要への感情を知らないんだろうなってことを。

「……まー、こんなことしちゃってるしねー。知ってる方が珍しいよ、うん」

 当たり前か、と首を絞める手を休めた。白い喉にくっきりと俺の指の跡がついている。苦しそうに空気を求める要の瞳は、俺をとらえてはなさない。責めるようなその瞳は、死にそうになってもまだ、俺を見つめる。
 ——あぁ、違うんだって。だから俺がこんなことしてるのは、
 言い訳めいたものが脳裏にひしめき始める前に、行動に移す。曖昧な俺にしては珍しく、決断が早かった。

「…………何にも、知らないくせにね」

 俺を真っ直ぐに射抜く視線が気に食わなくて、両手に力をこめた。
 何も知らないくせに。繰り返して、さらに力をかける。要は何か言おうとしているのか、一生懸命口を開いている。でも、俺の力に抵抗できなくて、されるがまま、泣きそうな顔で死を受け入れてゆく。
 ——違うよ。俺は別に、そんなつもりじゃ。
 きっと、要が俺のことを好きだったらこんな状況に陥ることはなかった。大好きだってことを伝えたかったのに、要はきっと悠太が好きだから、そんで俺は悠太のことも好きだから、だから、たぶん、えっと。

「っ、ぐ」

 その状態が、しばらく続いた。やがて、要の体の強張りがふっと解ける。
 俺も首から手を離し、前のめりになっていた姿勢を立て直す。力を入れすぎて、要の喉のように真っ白くなった手のひらを目の前にかざした。

「……あー、あ」

 クッ、と喉から自嘲的な笑いが洩れた。
 そして、彼を殺めた手で、自分の首に手をかけて、

「要、ごめ、」





■きっと君は何一つ知らないまま俺に殺され、




 ジリリリリリリリリ「ゆーき、朝だよ。早く起きて」「……んー」リリリリリリリ。
 目覚まし時計の音を割るようにして、悠太が俺を起こそうと呼びかける。肩を揺さぶられて、がくんがくんと視界が揺れた。
 悠太が俺が起きたのを確認し、朝食を摂ろうとリビングへと向かう。

「早くご飯食べなよ、遅刻するから」
「…………はーい」

 寝起きのため、ぼーっとした脳内で、何とか悠太に返事を返す。
 手の中に残る喉の感触ははっきりとし過ぎていて、気持ち悪かった。