BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 北いお、のまかぷ、オリジナル ( No.420 )
- 日時: 2012/03/12 00:03
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
- プロフ: 北見さん=短編用の主人公君
「北見に近づいてんじゃねーよ、ブス」
「…………え、」
振り返ろうとした瞬間、とんっというけして軽くはない衝撃が私の肩に響いた。
*
「……どしたの、その怪我」
「別にー。北見さんには関係ないですよぅ」
階段のところに座り込んでいると、後ろから声をかけられた。まだ首を動かすと少し痛い。
痛みを気取られたくなくて、私は頬を無理に吊り上げて振り返る。やっぱり、北見さんだった。今日もカラスのように黒い髪の毛が、網膜に刻々と焼きつく。学校中で評判の整った顔立ちは、私なんか心配してないみたいに無表情だ。
「見たところ、顔だけじゃなくて足もひどいことになってるみたいだけど」
「女の子の体にひどいっていう形容詞を当てはめちゃうだなんて……北見さんはもしかして天然系ドSという奴ですかぁ?」
「……傷だらけってことだってば」
髪の毛と同じように黒い瞳は、まるでガラスのように目の前の私の姿を映している。反射している、とでも言えば良いのか。彼の瞳を前にしていると私はとてつもなく不安になってしまう。いつも人の揚げ足をとる私が、足元を掬われてしまいそうになる。
北見さんの長い指が、私の頬の絆創膏につつく。本当はまだ傷が治ってなくて痛いけど、「ふへへ」と平気さをアピールしておいた。捻挫した足首も、こうして座っているだけで涙が出そうな痛みを発している。
「足首、どうなの。全治何ヶ月?」
「いえ、階段昇り始めた時に落ちたので、あまり大事にはならなかったんですよ。だからほら、この通り。昨日怪我したけど、今日はもうばりばりです」
ほらほらー、と包帯が巻かれた右足を見せ付けた。体の内から痛みが虫となって這い出てきそう。じくじくと痛んでいた足は、ずきずきと存在の主張をしてくる。
医者には全治三週間と告げられた私の右足は、包帯によって左足より少し大きくなっている。北見さんは「パンツ見えるよ」と何気なく言って、頬に触れたように包帯に触れた。普段はきついことを言ってくるのに、こうして病人扱いされると困る。照れくさくてそっぽを向いた。
「…………っ、」
すると、あいつらと目が合った。
廊下の向こうの、女子トイレの入り口でこっちを見ている。ひそひそと嘲笑を交えて内緒話中らしい。昨日、階段で一瞬だけ顔を見たグループの内の一人は、私に向かって厳しい視線を投げかけてきていた。
その視線に、背筋が冷える。
私の足元に座り込んでいる北見さんに、慌てて言葉を紡いだ。
「き、北見さん。それでは私は、えっと、クラス戻るんで」
「突然なにを言ってんの。竜崎、今うまく歩けないだろ。俺、ちょっとお前のクラスまで————って、あ」
北見さんが立ち上がる際に、私の視線の先を辿る。
視線の先にいた彼女らは、北見さんの真っ直ぐな瞳に耐え切れなくて、すぐに顔を背けた。あからさまなその反応は、昨日の出来事を思い出させるのには十分だった。
真っ逆さまに落ちていくあの恐怖が脳裏に蘇り、心臓がばくばくと音を起てる。こめかみに冷や汗が流れるのを感じ、手の甲で拭う。
「あ、そういうこと」
そして北見さんの方はと言えば、私と彼女らの間の何かをすぐに察知し。
私の右手をとり、自分の腕に捕まらせた。
彼のあまりにもナチュラルな行動に、呼吸が止まった。
「あの、北見さん」
「何」
返事をしてくれるくせに、北見さんは私の意志とは真逆に、ずりずりと私を連れて教室へと戻り始めた。右足が不便なので、逆らうことも出来ない。
「……がっちり、見られてるんですけど」
「大丈夫だよ」
彼女からの視線を平然と受け止める私はどこにもいなくて、だから俯いてしまう。
俯く私なんて意に介せず、自身の歩幅で歩く彼は、大丈夫だと何気ない調子で呟いた。
「竜崎は、大丈夫」
「…………そうです、か」
北見さんは当たり前のようにそう言ったから、私は口元に浮かんできた笑みを取り払えずにいた。
■震える手が掴んだのは、虚勢心ではなく、彼の腕。