BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【色々】憂鬱マゼンダ!【短編】 ( No.424 )
- 日時: 2012/03/18 00:24
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
- プロフ: 卒業、しましたお(`・ω・´)!
——あぁ、恋をしていたのだ。
固い筒を壁に当てると、手の内にその衝動が伝わってきた。握り締めても筒は潰れない。私の力じゃぁどうにもならないのだと実感し、苛立ちが募った。ごりごりと額を壁に擦りつけ、肌が削られる痛みを感じる。このまま削れてしまえ。なぜかそう思った。
——すごく、恋をしていたんだ。
背中にしょった鞄はすごくボロボロで、私がどれだけ荒い使い方をしてたのかってのを如実に表している。糸ごと壊れているので、チャックをしても鞄からは中身がはみ出てしまう。「セルフ取り出しだ!」と友人に自慢してはたかれたことは、まだ記憶に新しい。
「帰ろーよ、××ちゃーん」
後ろからとことことやってくるのは、自分よりも目線の低い友人。小さい小さいとあれだけからかっていたけど、結局はその背丈の小ささと愛くるしさが何よりの癒しなのだ。お互いに悪態をつきあって、その後にへへと緩みきった頬を見せ付けあうような仲だった。
最後だからといって、悪態をつくことはやめない。さっきまで無にしていた表情を一瞬で意地悪さで塗り替えて、声色も変えて。舌打ちをしてわざと嫌がるふりをした。
「お前と帰るぐらいなら今すぐ排水溝に入るわぁ……」
「そ、そんなこと言わんでよー!」
「ごめんね全部嘘。よし、帰ろうかー」
「ちょい××ちゃん、そっち帰る方向じゃないでしょ! 何グランドの方向進んでんの、てかどこに向かって話しかけとんの!?」
「はっ、お前そこにおったんかびっくりした!」
「そして今更気付かれるっていうね! うわぁああああ!」
泣き真似をする友人を一喝し、目を細めて笑いあう。笑顔のまま、視線だけはあの人の方へと向けた。同じ組の子と写真を撮っている。さっきまでこっちを見てくれていたのになぁ、と少しへこむ。
——最後まで、悪態ついちまったなぁ……。
朝に、向こうから話しかけてきてくれた。今日こそはと思い、素直な返事をしようと思っていた。だけど、やはり駄目だった。ちゃらんぽらんに、へらへらと笑いながら冗談を言うしか能が無かった。
その時の彼の表情は忘れられない。
(何だか、こう、寂しげっちゅーか、こっちを責めるような、っちゅーかさぁ、)
小説を書いている身としては、こういう時にはびしっと当てはまる表現をすぐに思いついておきたい。
でも、違う。寂しげでも、責めるような、でもない彼の表情。悲しそうというよりは戸惑っていたし、戸惑いよりも諦めたような雰囲気が強かったような気もするし。最後までこんな関係だったことを、嘆くようだったし。
「…………ゆーき、出したかったにゃー」
「ん? どしたの××ちゃん、帰る?」
「帰んねーよヴァカ特にお前とはなかっこ笑い!」
「きついよ××ちゃん!」
——もしも、もしもの話で。
手遅れだと分かっている。もうこれで終わりなんだということを知っている。けれど、想像せずには、別の道を探さずにはいられない。こんな終わり方では嫌なのだ。こんなに嫌な終わり方は。
——私かあいつが、どちらかが勇気を出していたら。
すれ違う視線、話しかけられるタイミング、言われる言葉、態度。向こうの態度に私は気付いていたはずなのに。気付かない振りをして、あの子みたいになりたくないからと優等生ぶってみたりして。
(……メアドぐらい、聞けたんでしょーかねー)
ぼんやりと遠目に彼のことを見つめた。私が隣を通れば、彼はじっとこっちを見る。今日、ずっときょろきょろしていたのは私を探してくれてたのかなーなんて自惚れてみた。私も探してたんですぜ、と強かに笑う勇気なんて無いけれど。
——勇気なんて無いんだよなぁ、結局。
卒業するまでに成長したところはたくさんある。数え切れるか数え切れられないのかは、置いといて。知ったことも、覚えたこともたくさんある。
それでも、勇気は出なかったのだ。
卒業式が終わった、この瞬間でさえも。
彼に笑って『卒業おめでとう』と言うことすら出来ない。
(……あーあーあーあーあーあ、あああああーぁあ、)
また緩み出した涙腺を止めるのに、時間はかからなかった。
■卒業した私が綴るふとした、
(たぶん、ぜったい、すごくすきだったんだよー)
(でもごめんねー、ゆうきでなかったんだぁ)