BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

潤モブ♂ ( No.427 )
日時: 2012/03/25 00:07
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: bvgtbsWW)
プロフ: 最近よくわからないの多いですね

 パンッ、乾いた音。
 頬をはたかれた衝撃は耐えることが出来ただろうけど、面倒だったので勢いと共に尻餅をついておいた。どすん。お尻に鈍い痛み。あまりにも甘っちょろい痛みだな、と痛み評論家ことマゾ野郎の俺が静かに評価した。
 殴った相手を上目遣いに見てみれば、向こうは驚いたような、泣きそうな顔をしている訳で。ちょっとそれ何なの、被害者気取り? 俺の方が殴られてんのに、それっておかしくないか。もやもやとした感情に名をつけられぬまま、立ち上がった。

「……ってー、痛いじゃんか」
「あ、っう」

 人のよさそうな笑みを浮かべてやれば、数秒前に俺を殴った張本人は、気まずそうに表情を歪める。自分が殴ってしまったことを後悔しているような、顔。こっちはマゾだから殴られることに異論はないけど、そんな表情をされることには抵抗がある。
 俺を殴ることをギャグだと感じられる人間は好きだ。また、俺の性癖を冗談と受け取って、からかえるだけの余裕を持った人間ならば。だけど、その余裕がない人間が俺は苦手だ。馬鹿みたいに笑う俺を見透かすような人間も。

「どしたの、殴れば良いじゃん。俺マゾだし、痛みも快感へと早変わりぃー」
「いや、だって、その、殴るとか……」
「そんなこと言っちゃってぇ。殴ったじゃん、さっき」

 ぱちーん、とね。赤くなった頬を見せ付けると、目の前の子の瞳はぎゅっと収縮し、涙を目の端に留める。
 俺の飄々とした態度に疑問を持ちながらも、何故と聞き返せない恐怖。それと戦っている少年は超勇敢だと思う。普通に、そういう人なんだって割り切ってしまえれば楽なのに。

「いやー、さっきのビンタは効いたよー。超吹っ切れた!」
「っ、うぅ……ご、」
「ああ、謝らなくても良いっての」

 引き攣った顔をしている少年に微笑みかける。びくり、拒否反応を起こされる。嫌われてしまったという結果のみが俺の眼前に見せ付けられた。
 淡々と、だけどしっかりとした口調で、俺は俺について語る。

「別に、殴ったことに罪悪感なんて覚えなくて良いんだよ。俺が無理矢理襲おうとしたのが悪いし、そりゃ危機感もって目の前の相手ぶん殴るわな。ビンタで済んだのがラッキーで、お前の優しさってトコ?」
「……いや、ちが、」
「だいじょぶだいじょぶー。俺、慣れてるからさぁ。あんま、気にしないで良いよ。ドントウォーリー、みたいなね」

 ひらひらと手を振ると、震えた視線がようやく俺の顔に注がれた。俺とその子は、初めて真正面から向き合う。
 正面から向かい合ったその子はやっぱり綺麗で、俺はだらしなく笑ってしまった。

「大丈夫。お前が殴ったのは正しいし、殴られた俺が悪いんだよ」

 言い聞かせるように、自分より年下のその子に言い聞かせる。その子は微かに頷き、涙目のまま俺をじっと見つめた。短い黒髪、幼い顔立ち。全部俺の中ではクリティカルヒットなんだけど。
 ——まぁ、手を出したら犯罪だわな。
 それに、まだ俺は最愛の妹に嫌われたくはないのだ。出会うたびに真顔になる妹を思い出すと、少し元気が出た。

「だから、もうあの子のことが嫌いだとか、自分が嫌いだとか————そういう、嫌いだからっていう理由で、俺なんかを許しちゃうのはやめなさい」

 諭すように、笑うように。柔らかく微笑むと、その子はようやく落ち着きを取り戻したようだった。
 今、この子はあの子のことを考えているのだろうか。俺なんかとは関係のない、あの子を。好きだってはっきり言えるような想いを持って。
 そう考えると、嫉妬心が疼いた。俺みたいなのがどれだけ手を伸ばしても届かないそれを、ふいに奪い返したいような、滅茶苦茶にしてやりたいような、高ぶった感情が芽生える。感情を笑顔というマスクの下に隠して、俺はまた呟いた。

「俺を嫌っても良いから、あの子のことを嫌っちゃうのは、やめろよ」
「……、は、い……」

 あまりにも小さくか細い返事をして、その子はほんの少しだけ目を細めた。
 そんな姿を見ると、ついつい俺は、この頬の痛みが心地よさに変わってしまうような錯覚を覚えてしまうのだ。



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 自分の特別を作れない俺は、誰かの特別を作ることならできるんじゃないかな——なんて、考えてみたり。