BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- いおたんとじゅん ( No.432 )
- 日時: 2012/04/28 01:22
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: Wx6WXiWq)
- プロフ: 過去の話めいた話
「兄さん」
響く、私の声。
いらない、いらない。こんな私の声、違うんです、違うんです。
「ごめんな、さい」
震えないでよ私。違うでしょ、私。
普段はそう、もっと気丈に振舞っているくせに。過去なんて、って思ってるくせに。
どうしてこういう時だけこんな風にに震え、
「ごめんなさい、兄さん」
——夏、真昼間、持っていたアイス、落ちた、畳、
脳裏に浮かんでくるのはあの時、目蓋にこびり付いた世界の残滓。
薄いキャミソールのは、日焼けした私の肌にぴたりとくっ付いていて、気持ち悪かった。
「私だったら良かったんですよ、私、が」
腹の撫でる手つきに吐き気がした。見上げられる感覚に眩暈がした。
頬に流れるものが汗だけではないと知りながら、それでも声は出せずにいたというのに。
それでも、助けを求めたというのか。
それでも、辛かったと被害者ぶっても良いのか。
「私が、我慢、してたら。良い子の私だっ、た、ら」
見開いた眼球に入り込んだのは、幼い兄で。
逃げろと叫んだ彼の声にすぐ応じられなかったのは誰だったのか。
立つことも出来ずに、泣き喚く兄の姿を歪む視界に映していたのは誰だったのか。
「兄さんは、傷つかなくて、」
「伊織、」
あの夏の生温い空気が、一瞬にして優しい香りに塗り替えられた。同じ生温さでも、私の肩を抱くこの温さの方がよっぽど心地よかった。
体中にびっしょりと汗をかいていたようで、鼻の頭が湿っている。小さく息を吸い込み、吐く。たったそれだけで、安心することができた。
「別に、俺のことはもう気にしなくて良いんだからさ」
——あぁ、また言われてしまった。
相手がそう言うことを理解した上でその言葉を吐くのは、私の悪い癖だ。頭痛のひどい脳みそは今にも中身が零れ落ちそうで怖い。ぎゅるぎゅると音が響いているようで気持ち悪さもある。
でも、そんなことよりも。
兄さんのその飄々とした態度の方が、私の胃にはずしんと響いた。
「……っ、ははははははっは」
「伊織」
兄さんが心配したように笑い始めた私の顔を覗き込む。やめてくださいよ、真面目な顔でこちらを見ないでください。
そんな風に心配されたら、私の逃げ場は一体どこへあるというのか。普段の私は、声をあげて笑う私はどこへいったというのか。
疑問を振り払うように兄さんの腕を振り払った。驚愕に染まる顔を見て、私は初めて愉悦に満ちた笑みを振りまくことができた。
高らかに叫ぶのは、今まで抱いてきた疑問のアンサー。
「あぁ、あの時の私を殺したのは!」
■さようなら、グッバイ、シーユー、アゲイン。
私は一体、誰に殺されたの?