BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

青+黒、黒の独白 ( No.435 )
日時: 2012/05/03 22:39
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: Wx6WXiWq)
プロフ: アジカンの№9を元に。







 遠い背中を見つめていると、涙が滲んできた。
 青く、鋭く、どこまでも強い君は——僕の心の底を抉り、鮫のように切り裂いて行く。
 それが例え過去であったとしても、時間なんてものは無視して、獰猛な光を瞳に称えたままに。止まってしまえば息絶えてしまうとでも言いたげに彼は進んでいく。ずっと止まったままの僕なんて見もしない。
 君の姿はここにない。でも、君の光は僕の網膜に焼きついて、一生そこに留まっている。

「……それでも君は、行くんでしょうね」

 ——僕なんか構わずに、いつだって。
 コートの中で立ち止まっているのは僕しかいない。立ち止まらない皆が普通なのだ。立ち止まっている僕が異常で、逆方向を向いている。
 僕の視線の先に君はいない。君は悠々と僕の頭上を飛び越えて、空へと飛び立ってしまいそうだ。

「ねえ、君は、行くんでしょう?」

 呼びかけても、返事は返ってこない。期待なんてはなからしていないが。
 練習の後でからからの喉を振り絞って、大声を出す。自分の体から搾り出されるのは、君のような明るい大声じゃない。生気の失ったあやふやな、風のような声だ。

「僕にそうしたように、誰かを泣かせても……それでも君は行くんでしょう」

 がらがら声は、過去を喰い潰して行く。
 君と初めてバスケをして楽しかったという感情。帰り道に皆でアイスを買って食べた、夏も終わりかけの放課後。飲み終えたペットボトルの押し付け合いをして、赤司君に怒られた試合。太陽が高く昇った空の下で、屋上で寝ていた君を見下ろした。
 そして、全てを壊された君を見た————あの日のこと。

「……もう、他の誰かの何かを、壊さないでください」

 僕の希望を打ち砕いた時のような、あの強さで。
 圧倒的な力で闘争心を喪失させる、あの鋭さで。

「——もう、繰り返すのはやめてください」

 痛みを抱え込まえたまま、前を向こうとしないで欲しい。痛かったんだ、と素直に言って傷口を見せて欲しい。
 ——その願いはきっと、決別した今でも叶わないだろうけど。
 視界がだんだんとぼやけてきた。それが夢の中から出ようとしているせいなのか、涙なのかは区別がつかない。鼻につんとしたものがこみ上げて、喉が潰れそうになった。

「君は十分に、壊されたじゃないですか……、」

 くるり、振り返った君の顔は変わらなかった。厳しい表情で、ぎゅっと口元を真一文字に結んで、俯くこともせずに、立ち尽くしていた。
 僕は君に何を言えば良いのだろう。何を伝えれば、君の表情を変えることが出来たのだろう。
 答えはどこにもないし、見つからない。振り絞った声は、彼の笑顔が瞬いて、言葉にならなかった。

「もう、誰も、泣かないでください……!」

 君も泣かないでいて欲しいと、願うことを許して欲しい。




■フラッシュバック、君と僕。



 
 君の笑顔ばかりが、フラッシュバックしてしまう。そんな僕の脳内を助けてよ。