BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

素海龍様リク ( No.481 )
日時: 2012/08/06 22:55
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: hFu5/zEO)
プロフ: いろいろ間違ったスクベル

「いつか死ぬんだぜ」

 ひたりと喉元に冷たさ。視線を下へとずらすと、無表情のベルに出会った。金髪の彼が手にしているのは、武器であるナイフ。ナイフは紛れもなく彼の私物で、人殺しに使用するタイプのものだった。切っ先は真っ直ぐに自分の喉元へと向いており、たぶん、一突きされたら死ぬ。
 自分が後一歩で死んでしまう。危機感を持っていなくてはならない状況だというのに、思考回路はぼんやりとしていて、いまいち状況が飲み込めずにいた。そんな自分を、ベルはじっと見つめていた。見つめていたといっても、彼の両目は長い前髪が邪魔をしているが。

「いつか、俺は死ぬんだぜ」

 繰り返されたのは、同じ言葉だった。つい数秒前まで任務遂行祝いだからと酒を飲んでいたので、その言葉と共にわずかな頭痛を感じる。強いアルコールの香りがこの部屋中を占めていた。
 状況が理解できないのとアルコール臭が強いのとで、どうしても返事をする声には不愉快さが混じってしまう。

「……当たり前だろがァ。何言ってんだ、テメェ」
「俺だけじゃない。スクアーロも、ボスも、マーモンも……みんなみんな、死ぬんだ」

 ベルの声は普段の陽気さを欠けていた。酒を飲みすぎて悪酔いしてしまったんじゃないか、という疑問が脳裏を掠めたが、どうもそういうわけではないらしい。
 珍しくしおらしいことを呟いているベルは、やはりナイフを突きつけている姿勢を崩すことはなかった。ぴんと腕を伸ばし、一切の狂いも見せずに自分の喉仏を狙っている。さすが殺し屋だ、と笑いを噛み殺していると、再度ベルの唇が動いた。

「何もしなくても俺たちは死ぬんだ。飯が食えねーとか、寿命とか、そんなくだらないことで……呆気なく人は死ぬんだぜ、スクアーロ」
「今さら何言ってんだぁ? そんなこと、誰よりも人間を殺してきた俺らが、よく知ってるだろぉ」
「違うよ。誰よりも殺してきたからこそ、俺たちは、人間の死に無知なんだよ」

 ふいにナイフの切っ先が喉元から外れる。殺されないということがわかっていても、離れた瞬間ほっとした。ついた息がねっとりと酒臭いことに辟易する。余程強い度数のものをベルは持ってきていたらしい、テーブルの上に置かれたボトルの名は聞いたことのないものだった。
 ベルはゆったりとした動作で自分の上から退いた。今気付いが、ベルは半分眠りこけていた自分の上に覆いかぶさるようにしてナイフを突きつけて来ていたようだ。力なく自分の上からおりると、ベルはどこかふわふわとした口調で続ける。

「少なくとも俺はそうだ。俺はジルを殺したのに、未だになんでジルが死んじゃったのか分からないしさぁ。呆気なくて、死ぬことがどうとか理解できないまま殺しちゃった。それからいっぱいいっぱい殺してみたけど、やっぱり分かんねーよ。何で人間って死ぬのかな、何でナイフを刺してみただけで死ぬのかな。ねぇスクアーロ、あんなに簡単に死ぬんだぜ。血が出ただけで、頭を打っただけでも俺たちは死ぬんだぜ? もしかして、俺たちが死ぬときもあーなのかな。相手を殺そうとして、足を滑らせて死んじゃうのかな。たまたまディナーで出た魚に毒が入ってて死んじゃうのかな。そんな簡単に死んじゃうのかな、俺は」
「おいベル、少し」
「たくさん殺したよ。任務だったり、楽しかったり、ボスの命令だったり、単に苛々したり、くだらない理由でくだらないやつらをいっぱい殺してやった。でもさ、でも分かんないんだよ。何であいつらが死んじゃったのか、俺は未だにわかんないんだよ、スクアーロ……」

 だらだらと流れ出てくる言葉の波は重苦しくて、どんよりと曇っていた。冗談ばかり口にするベルには珍しく、弱弱しく実態のない言葉の羅列。
 最後に自分の名を呼ぶと、ベルはぽすりとその頭を胸へともたれかからせた。酒が回ってきたのか、顔色が悪い。真っ白な首筋に浮いた赤色は自分が先ほど付けたもので、妙に艶かしい。出来るだけそこを見ないようにしながら、小さな背中に手を回した。
 抱きしめると腕の中の体はびくりと反応した。が、言葉は聞こえなかった、黙って抱きしめられている。小さな少年を抱いたまま、大きく息をついた。やはりアルコール臭い。飲みすぎた。

「おい、王子様」
「…………何、カス鮫」

 いつもならムカつく悪態も、弱さを露わにしている姿を前にしては意味を成さない。いつもこんな風に可愛ければ良いのによぉ、と頬だけで笑ってみせると、不機嫌そうに睨まれた。長い前髪の間からのぞく双眸は、今にも泣きそうで。
 だから、金色の髪の毛を指先で弄びながら、言い聞かせるように呟いた。

「そんなくだらないことで、俺はお前を殺させねぇぞぉ」
「……スクアーロがいくら言ったって、俺はお前の知らないとこで殺されるんだよ」
「殺させねぇよ、ばーか」

 鬱陶しい前髪を無理に掻きあげると、ベルは窓から差し込む月の光に目を細めた。アーモンド型の瞳が、困惑したように歪んでいる。久しぶりに真正面からその瞳を眺めたような気がして、子供みてェな顔、とまた薄く笑った。

「神様にも、寿命にも、運にも。そんなくだらねぇことでお前が殺されるなんて真っ平だ——絶対殺させねぇ。もしもお前が殺されるなら、それは俺の手でだぁ」
「何それ、横暴」
「うるせぇ。文句あんのかぁ?」
「…………一つだけ、お願いしていーんなら、お願い」
「ハァ?」

 怪訝な顔をした自分に向かって、ベルは唇をほんの少し歪めてみせた。それが笑みととれる形がどうかはわからない。
 だが、それを前にしていた自分にとっては、彼の心からの微笑に思えた。


「鮫みたいに、食い散らかさずに殺してよね」
「……ばぁか」

 ばつの悪い顔をしてそっぽを向いてやると、ベルは小さく笑い声をあげた。




■いつか、私があなたのことを殺すならばの話。





 鮫のように、鋭い歯をもって貴方を殺してあげる。
 私以外誰も貴方の屍を喰らうことのないように、血の一滴まで。










****

素海龍様リク品、シリアスなスクベルでした。
ちなみにリボーン久しぶりなんで口調とかガチ忘れしてますがその辺りはお口ミッフィーにしとこうね皆さん!!(滝汗)


素海龍様以外のお持ち帰りはご遠慮くださいませ。