BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 球磨→→善 ( No.494 )
- 日時: 2012/08/16 22:58
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: hFu5/zEO)
「『はい、視力ね』」
「…………! ッ、…………」
きゅるりーん、と擬音をつけるのを忘れずに、小悪魔的笑顔を浮かべて言い放った。すると、善吉ちゃんは以前の生徒会戦挙で見た時と同じ表情になったまま、膝から崩れ落ちた。
まるで、今の自分の状態が信じられないとでもいうかのように、眼球はぎゅるぎゅると高速で動いている。たくさん動いてるから、きっと色んな世界を見れてるんだろうなぁ。あぁ、もうそんなこと無理か。だって今、僕が視力をなかったことにした訳だし。
「『ねぇねぇ、善吉ちゃん』」
ふるふると体を薄く震わせて、僕の前で崩れ落ちたままの善吉ちゃん。いつもは大きく吊り上がっている瞳(主に僕を怒るために)は、一体今何を映しているんだろう。暗闇かなぁ、と僕は少しだけ考えてみて、また話しかけた。
「『まだ耳は聞こえてるよね? だって、まだ僕は君の声を“なかったこと”にしてないんだぜ?』」
「……っま、ぁ、ぐ…………」
「『あぁ、そっか。声は“なかったこと”にしてなかったっけ。確か————肺の半分を“なかったこと”にしたんだっけ?』」
ねぇ、と相手の言葉を待ってみても、善吉ちゃんは真っ青な顔。肩で息をするばかりだ。今まで自由に息をしてたからいけないんだよねぇ。毎日、ちゃーんと鍛錬してなくちゃ。なんちゃって。
僕の大好きな善吉ちゃんは、ぼろぼろの姿になっている。なっているっていうか、そう僕がしたのだ。理由は簡単。僕のことを好きになってくれないから、ただそれだけ。
「『…………あのさぁ、善吉ちゃん。君が一言、僕のことを愛してるって呟けば——ぜーんぶ“なかったこと”を“なかったこと”にしてあげるんだよ? 少年漫画の主人公よりも深く広い心を持つ僕がそう断言してるんだから、間違いないさ。それでも君は、僕の言葉にノーと返すの?』」
「……、なかっ、たことをなかった、ことにすンのは………っ、出来ないんだろ、くまが、……」
「『あ、よく覚えてたねー。後、僕の名前へくまがじゃなくて、球磨川だよー善吉ちゃん』」
マイナスに、マイナスを掛け合わせるとプラスが生まれる。それが出来るのは結局、数学の数式の中だけだ。
僕はそれを知っている。現実では、マイナスにマイナスを足していっても、ただマイナスという海に溺れていくだけで。マイナスにマイナスを掛けても、倍の絶望として雹のように降りかかってきて。そういうリアルを、僕は理解している。
——じゃぁ、何でこんなことしてるんだろうねぇ。
目の前の彼が酷く歪んで見える。そんなに色んなマイナスが降りかかってきているのに、抗おうとする彼の姿が。
「『……言ってみなよ、ねぇ、善吉ちゃん。球磨川禊のことが好きだって、言ってみなよ?』」
そうすれば、楽になれるんだぜ?
括弧無しの言葉は、彼の耳に届いたのだろうか。鼓膜を破いたかどうかを僕は覚えていない。けれど僕の杞憂も無駄だったようで、彼にはしっかりと聞こえていたようだ。鮮やかな金の瞳が大きく見開かれている。
「……だ、」
かすれ声。小さな小さなものだったけど、僕は聞き逃さなかった。血が滲む善吉ちゃんの唇が、わずかに動く。
「『え?』」
「だいっ、きらい、だ」
「『ああ、そう』」
予想できていた言葉だったから、僕の行動は素早かった。胃を半分無かったことにするのは躊躇するものがあったけど、しょうがない。彼は芋虫のように地べたに転がると、げほげほと汚く胃液を吐いてみせた。急に胃がなくなる気持ちってどんなのだろうね。冷めた目で彼を見つめながら、そう思った。
——でもまぁ、いたぶるのにはまだまだだねぇ。
歪んだ笑いを頬に称えて、僕はゆっくりと問いを繰り返す。
「『ねぇ、善吉ちゃん。球磨川禊が好きだって、言ってみなよ?』」
■「愛してる、のひとかけらをください」
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ほんとうはこういう当人達が救われない一方的なヤンデレ後味悪いの好きじゃないけどリサイクルするささめさんはチキン野郎だと思いました、まる