BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 黄紫♀ ( No.495 )
- 日時: 2012/08/17 22:10
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: hFu5/zEO)
俺が通りかかった時、紫っちは女子に囲まれていた。クラスの派手なグループに属している四人は全員スカートが短くて、どこぞの雑誌の猿真似をしたみたいな似合わないメイクを施している。胸にパッドを入れているのか、不恰好な胸元が紫っちの前では余計にみっともなく思える。天然もののFカップと作られたDカップのどちらが美しいかなんて第三者から見ればすぐわかる。
あんな不気味なもんはメイクじゃなくて最早ギャグっスよ——化粧品を無駄にしたことに対して俺がぷすぷす怒っていると、一人がつんと唇を尖らせて言った。
「ちょっと紫原ァ、あんた最近ちょーし乗ってない?」
「そーよそーよ。黄瀬君と仲良しだからって、へらへらしてるっていうかさぁ」
「媚売ってる、みたいな?」
「それそれ。マジそれ」
俺と同じぐらいの視線の高さである紫っちは、やっぱり他の女子に囲まれても頭一つ分浮いて見える。今朝赤司っちが鼻歌まじりで仕上げていたお団子ヘアーが可愛らしい。普通に下ろしているよりも断然アリだ。
さてそのお団子ヘアの美少女は、ぼんやりと眠たげに目をこすっている。さっきの授業中あんだけ寝たのにまだ眠いってどうなんスか。女子達を意に介していない様子、そしてふわぁと大きく口を開けて欠伸をする様子に思わず俺の頬が緩む。可愛いっス。携帯で撮って青峰っちにあげようか——携帯を出そうとポケットに手を突っ込んだ。
その瞬間。
ガシャンッ! ……フェンスが軋む音。
ぱっと顔を上げてみれば、リーダー格の女子がスカートの中が丸見えになるにも関わらず、足を上げている姿。右足は紫っちのすぐ横のフェンスを蹴ったまま、微動だにしない。
紫っちはポッキーの袋を手にしたまま、視線だけを真横の足に流した。昼休憩は彼女にとって素敵なお菓子タイムのはずだ。あんな風に邪魔されて、実は内心怒っているのではあるまいか。リーダー格の女子はドスの効いた声で続けて、紫っちの機嫌なんてお構いなしだ。
「……てかさぁ、話聞いてんのアンタ。アタシら、アンタの為に貴重な時間使ってやってんのにさぁ」
「まじそれー。媚売るのやめろって忠告してあげてんのに」
「あ、もしかして? そんな風に黄瀬君と仲良くしてたら、他の男子とも色々出来るかなとか思ってるわけー?」
「うっわーまじビッチじゃんそれ。ほらあれでしょ、バスケ部の男子とかに色目使ってるって噂。あれ本当だったんだぁ」
「青峰君とか赤司君にでしょ? 今は緑間君をオトし中なんだってねー……ありえない、アタシだったら絶対一人とセイジツなお付き合いするし」
——あンの、アマ共。
さっと頭に血が上るのがわかった。体中に鼓動のリズムと共に怒りが巡り、俺の額に熱が生まれる。校舎の影に隠れて良いタイミングで「どうしたんスかー?」とか素知らぬ振りして有耶無耶にするつもりだったのに……さすがに、あんなこと言われちゃあ黙ってられない。
立ち上がろうと、地面に手を付いた時だった。
初めて、紫っちが口を開いた。
「なんで?」
「……ハァ? 何でって、何よ」
言われたほうは、何か言い返せるのかと優越感に浸った笑いを浮かべた。その笑いに気付いているのかいないのか——すみれ色の目をゆっくりと瞬きすると、紫っちは何気ない調子で呟いた。
「なんで、黄瀬ちんと仲良くするのにほかの男が関係あんの?」
「…………え」
「だーかーらぁ。黄瀬ちんと仲良くすんのに、なんでほかのやつのこと考えなくちゃなんないの? 黄瀬ちんは、たった一人しかいないじゃんか」
「だっ……だって、黄瀬君と仲良くしてたら、他の男子が!」
「あんたはそういうこと考えて、黄瀬ちんと仲良くしてんの?」
「ち、違うわよ!」
形勢逆転、とはこのことか。リーダー格の女子の顔色はさっと赤から青に変わる。他の三人も困ったように目配せしあい、どう反論したら良いものかと思案している。本心を突かれたので女子たちは何もいえない。
ターン、紫っち。紫っちは細い指でぴりりとポッキーの包みを破ると、一本だけ取り出して唇に挟んだ。淡い桃に色づけされた唇はもにゅもにゅとチョコレートの味を楽しんでいる。
「黄瀬ちんがいっしょーけんめい俺と居てくれるのに、ほかのやつのこと考えるとか、しつれーでしょ? 少なくとも俺は、じぶんと一緒にいるのに、ほかのやつのこと考えられたら、やだなーって思うよ」
——って、赤ちんも言ってた。
最後にそう付け加え、唇の端についたチョコをぺろりと舐めとると、紫っちはゆったりとした動作で四人の間を縫ってこちらへと歩いてきた。黙り込んでしまった四人は動揺を露わにしたまま、そこに立ち尽くしている。
もう大丈夫だろう、俺はそう思い、明るい声を出して校舎の影から飛び出した。
「紫っちー! 新発売のポッキー買えたっスかー?」
「あ、黄瀬ちん。買えたよー、ほら、見てみて」
「本当だ! いいなー、俺にも後でちょっと頂戴!」
「いいよー。そんかわりまいう棒、一本おごりね」
「えー、紫っちのイジワル。一本だけっスからぁ!」
普段のように振る舞いながら、俺たちの方をびくびくと眺めている四人を睨むことは忘れない。睨むのは一瞬で、後は王子様みたいなスマイルで中和してあげたけど。向こうは気まずそうに不細工な笑みを浮かべていた。しばらくは俺にも紫っちにも話しかけてこないだろう、と予想。
「……ねー、紫っち」
「なにー黄瀬ちん」
新発売のポッキーを幸せそうに頬張る彼女の腕をとり、綺麗な手の甲と俺の手のひらを合わせた。微かに感じる温もりを堪能しつつ、俺はにっこりと笑って聞いた。
「遅かったけど、何かあったっスか?」
「むむ? 何もないよー。ちょっとゆっくり行ってただけー」
動揺さえ見せず、紫っちは言い切った。
俺はそれに応えるように、彼女の指に自分の指を絡めてみせた。
「へー、そうっスか!」
何も知らない振りをして、目を細めてみせて。
■信頼コミュニケーション!
「紫っちぃー、もう一本欲しいっスー」
「やーだー」
*****
黄紫♀のリア充ぶりは異常。