BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

トウ→←カズ ( No.498 )
日時: 2012/08/25 01:10
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: hFu5/zEO)

■だから俺は君のヒーローにはなれないんだよわかってくれ、いいやそれでも君は聞こうとしない。俺を孤高のヒーローにしたくて君はまた泣く。泣き叫んで、俺をそこに縛り付けて放さない







 殺される、と思った。
 彼女が伸ばした指がじとりと汗をまとった俺の首に絡みつき、薄っすらと浮き出た喉仏をとらえる。まだ呼吸の途中だったので俺の喉からは掠れた音が洩れてびくりと肩が震えた。いつもはひんやりと冷たい彼女の指先。今日はやけに熱いんだね。せせらってやりたい衝動に駆られそうになったけど、酸素の欠乏がその笑みをどこかへ持っていってしまった。

「たすけて、よ」

 その言葉と共に零れ落ちたのは一切の熱を含まない冷たい冷たい涙の粒で、頬に水滴を受けた俺は「あぁそっか、彼女の指がこの涙の温度を奪っちゃったんだ」なんて妙に納得しちゃうほど気が狂ってしまっていたのだ。あの時、俺はキ××イだった。
 世界には彼女と俺しかいなくて、だから彼女を助けられるのも俺しかいなくて。頭がおかしかったからこそ現実的に有り得ない理想郷を心の中に作り出していたのかもしれない。

「ひぃろー、なんでしょ。トウカは、わたしの、ひーろ、」

 どうやら彼女も同じらしい。ヒーローなんて居もしない奴のことを目の前の俺に重ねてしまっている。ヒーローなんて幻想なんだぜ、和人。俺みたいな奴はお前のヒーローになれないんだよ。なぁ、俺たちはもう高校生だろ。夢から覚めろよ、和人。

 ——かずと、かずと。

 呼ぶと嫌がって唇をぎゅっと噛み締め目を三角にしてローキックをかましてくる彼女の本名を俺は呼び続けていたというのに、一切の反応を彼女が見せることはなかった。ただ「助けてよ」と懇願するばかりで、俺が投げた言葉のボールはぽちゃんと彼女の涙だまりに落ちていく。

「たすけ、たすけてよ、トウカぁ……」

 惨めったらしく泣き叫ぶ彼女を横目に、俺は唇を歪めて、長い彼女の髪の毛を掴むと勢い良く床に叩きつけて小さな鼻から鮮血が溢れ出すのを確認しさらにお腹を五、六回足の甲で打ち付けて、そこでようやく目が覚めたことに気付いてほっとする。



 あぁ、良かった。
 俺はまだ、ヒーローなんて奴になれない凡人のままだって。




*****


そして世界は。のキャラの何気に好きな男女名前逆転コンビで鬱々しく書いてみて眠いので眠ろうかな