BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

DIO→←承 ( No.510 )
日時: 2012/09/02 00:13
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: hFu5/zEO)
プロフ: グロいかもしれない

 切り口からのぞいている真っ赤な肉が、突き刺した俺の指を受け入れようとうねうねと蠢き爪の先へと絡み付いてきた。あぁ、やっぱり無理だ。すぐに理解し、彼の首筋から指を引き抜いた。びち、と引き裂くような音がしたのは彼の体が今にも自分の指を喰らおうとしていたからだろう。まるでエイリアンだと嘲るよりも、ぞわりとしたものの方が強かった。
 さて、自分の首をナイフで掻っ切られた挙句、その傷の指をねじ込まれた彼の方はと言えば。口紅を塗った大きな口をにんまりと歪め、手に持つワイングラスの中身をゆらゆらと揺らしている。余裕の笑みを称えており、俺のキ××イのような行動にも微動だにしていなかった。俺程度には殺されない自信があるとでも言うのか、鎖骨に流れた血に視線をやることもない。

「こんなことをしても、テメェは死なねェのか」
「死なないわけではない。日光に当たれば危ないし、スタンドで攻撃されてしまえば終わりだ」
「……頚動脈を切ったのにたった二秒でその傷が消えた。化け物が」

 苛立って吐き捨てると、より彼の笑みの色は濃くなる。月夜の晩だ。彼のくっきりとした顔立ちには鮮明に影と光が出来上がっていた。笑うことで陰影は形を変え、長い金色の睫毛をぼぅと浮かび上がらせる。
 こんな月の夜は、特に彼のことを美しいと思う。俺を殺そうと猛る彼の表情は鬼気迫るものがあり、美しいだなんて思っている暇さえないが。こうして落ち着いて二人で向かい合っていると、俺はもしかして人形を相手にしているんじゃないかと思えるほど端整な顔立ちをしていた。吸血鬼の特性によって傷一つない頬はなめらかで柔らかいということを、触れたことある俺は知っている。

「化け物か。ククッ……吸血鬼と言え、承太郎。そんな呼び方じゃぁ、私が醜悪でおぞましいもののようではないか」

 だろう?と首を傾げられた。その動きさえ美しいのだから困る。さらさらと流れる金髪は月からの贈り物のように光り輝き、双眸に灯る優しげな色は紛れもなく俺に向けられたものだ。
 そうだ、彼は俺のことを愛しているのだ。だからこんな風に俺が彼を殺そうとしても、いたずら好きの子猫を相手にしているような態度しか見せない。視線にはいつも柔和な色が含まれているし、ほのかに笑っている姿は好きな者に見せるそれだ。
 ——きっと、その視線を受け入れてやれば、俺は楽になれるのだ。
 彼の惜しみない愛情を受け入れ、こちらも穏やかな口ぶりで愛していると呟けばよい。たったそれだけのことだ。
 だけど俺は笑わない。愛している、とも言わない。

「……おいおい、何言ってんだ、テメェは」

 からからに渇いた喉から搾り出すように、低く呟く。
 先ほどまでの甘い雰囲気を打ち砕き、まとわりついていた温かさを振り払う。浸ってはならない、と自分に言い聞かせながら、先ほど失敗してしまった嘲笑を浮かべてみせる。

「テメェみてーな化け物が、今さら人間面してんじゃねぇ。お前のその真っ赤な肉に詰まってんのは、俺たち人間のような愛や希望やら優しさじゃねえぞ、DIO」
「ほう? ならば、私の内面に存在するこれは何だというんだ承太郎。おっと、筋肉や細胞、骨なんていうくだらない答えを求めてるわけではないぞ。もっと愉快な答えを私は求めているのだ」

 まだまだ余裕はあるらしい。軽く両手を広げ、睨んでいる俺の方を柔らかく見つめ返してきた。その動作は、やはり美しい。ガラスのない窓から吹き込んできた夜風が、彼の短髪をさわさわと弄んでいった。
 クッ、と喉の奥で笑いながら俺は言う。

「……お前の体にみっちりと詰まったそれは、蛆虫みてーなもんだ。どこまでも汚くて、鬱陶しくて、人間の持つ綺麗さとはかけ離れてやがる。そのムカつく面の裏側にあるのは、クソみてーな化け物一匹だぜ」

 俺の挑発的な言葉に、さっと彼の顔色が変わったのが闇の中でもわかった。
 さて、これから彼は俺を殺すだろう。化け物と言われたことに逆上し、怒りをその拳に乗せて俺を殴り殺す。ナイフで突いて殺すかもしれないし、タンクローリーで潰して殺すかもしれない。
 彼が俺を殺そうと思う感情には、数秒前までの温かさも、心地よさも一切ない。
 そう考えた瞬間、体がぞくりとあわ立つのがわかった。









■愛なんて、初めからいらなかった。





 皮の下にあるその愛という奇妙な形のないものに俺は怯えているのだ————理解し終える頃には、とっくに彼は俺の息の根を止めようと拳を振り上げていて、






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このぐらい殺伐としている方が好きです