BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 高緑/最大公約数 ( No.529 )
- 日時: 2012/10/06 23:50
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: hFu5/zEO)
- プロフ: スライディングたかみどの日やでェ……(∵ )
俺の二歩分はさ、真ちゃんの三歩分な訳だよ。俺の四歩進んでる間に真ちゃんは六歩進んじゃってるってこと。俺は二の倍数、真ちゃんは三の倍数でこの道を歩くことを決められちゃってるんだ。この事実から分かることは至って単純なもの。俺は一生真ちゃんの背中を見ることしか出来ない。あの生真面目そうに顰めた顔を前から眺めることは叶わない、っちゅーことだな。しかもそれだけじゃない。俺と真ちゃんの差は徐々に開きつつある。そりゃそうだよな。だってスタートラインから違うんだもの。いっせーので始めたくせに、アイツは平気で俺より一歩分多く前にいるんだぜ? さも当然って感じで、後ろの俺を振り返ることもしないで。それって何か皮肉なもんだよな。同じように歩いてるはずなのに、一生俺はアイツの隣にいることは出来ないんだから。ほんと、天才って嫌になる。
……いや、違うな。俺は気付いてるんだ。真ちゃんの凄さは天才とかそんな言葉で片付けちゃいけないものだって。あれは天才じゃない、努力家だ。血反吐を吐きながら、それでも前を向いてへこたれない努力家。俺たちがへらへらと「疲れた」と呟いている間にアイツは練習を黙々としている。誰にも練習しろとか言われてねーし、誰も褒めてくれないはずなのに、それでもアイツは見えない何かの為に必死こいて練習してる。禁欲的で、自分に一番厳しい、うちのエース様。
この一歩の差は、きっとそこにあるんだろう————俺はあんま頭が良くないけど、それだけは分かるんだよな、不思議と。
◇
「俺は真ちゃん好きだけどさぁ、真ちゃんは別に俺のこと好きじゃなくて良いんだよ」
「……そうか」
「両想い、なーんて奇跡は俺には幸せ過ぎて抱えきれねぇや」
「なら、俺も一緒に抱えていてやるのだよ」
「…………マジで?」
「ああ。だから、俺がお前の好意に応えられるようになるまで、ちゃんとその想いは持っていろ。……両想いなんて奇跡、タダで手に入ると思うなよ」
「ははっ……真ちゃんおっとこまえー!」
◇
真っ暗闇の中で二人きり、お互い息も絶え絶えだった。息も絶え絶えといっても別に死にそうだとかそんなんじゃない。あ、気持ちよすぎて死にそうって意味ならベリーグッドな感じで合ってるけどね。ぐちゃちゃの熱は下半身だけじゃなく脳みそまで入り込んでて真ちゃんだけならともかく俺まで脳内ぐでんぐでんだった。あー真ちゃん可愛い超好き愛してるって気持ちで思考回路が埋め尽くされて、何かもう、いっぱいいっぱい。いっぱいいっぱいなのは初めての真ちゃんも一緒だったろう。ちゃんとエスコートしてあげたいと思ってた数時間前の自分が愚かに思えた。おい数時間前の俺、お前すごいぞ。普段みたいにHSKでいられないから、気をつけろよ。意識を過去に向けていると、俺の眼下にいる真ちゃんが小さく呻いた。あ、まだつながったままだったなと我に返る。真ちゃんは桃色の跡がついた両腕で自身の綺麗な顔を隠し、ぼそぼそと言った。
「…………こうやって、愛し合っても、子供すら生まれないのだよ」
その言葉を聞いて、俺の胸がきゅーっと締め付けられたのは言うまでもない。
たぶん、真ちゃんはすげー不安なんだよな。だって俺たち男同士だし、まだ高校生で真ちゃんにも俺にも未来への道は何通りもあってさ、まだまだバスケを続けていたいし、生温い子供のままでいたいんだ。そんな中で俺とこうして交わるのは、クソ真面目な真ちゃんからしたら罪悪感たっぷりなことだ。死んでしまいそうな程の快感の後に、死んでしまいそうな罪悪感に押しつぶされてしまいそうになって。真ちゃんはいつかどちらかのせいで死んじゃいそうだ。
でも死んじゃう前に、俺との愛の証が一つぐらい欲しいとかなんとかっていう乙女チックな思考を持つ真ちゃんは——死にたくても死ねないし、俺との子供は当然だけど出来る訳がない。自分のパパとママが愛し合って出来たのは自分なのに、同じように俺と愛し合ってみても、子供は生まれない。好きな人と行為をしたら子供が出来るはずなのに、出来ない。その矛盾が真ちゃんを苦しめている。真ちゃんは頭が良いから、こんなことすぐに理解できるはずなんだけどなあ。俺と付き合い始めてから、馬鹿になっちゃったのかもしれないなぁ。
ねぇ、真ちゃん。
真ちゃんの思い描く“高尾和成との子供”は、真ちゃんの夢の中だけでも、きちんと息が出来てる?
◇
「別に俺、真ちゃんが持ってるものはいらないんだよね」
付き合ってすぐの頃、高尾にそう言われたことがある。言ってる意味が分からないのだよ。お前の話はいつも唐突過ぎる。俺が黙ってしまったのが意外だったのか「ありょ?」と高尾は先を歩こうとしていたそのつま先を空中で停止させ、器用にもその場でくるりと俺へと振り返る。
「あ、違うよ。真ちゃんの処女は欲しいし、」
「黙れ馬鹿尾」
「つれねーなー。……あ、だからそーじゃなくて。俺、真ちゃんが他の奴らに求められてた、才能だの器用さだのはいらねーって話。何も出来ない真ちゃんが大好きなんだよ、っていう告白だよ、告白」
高尾はつらつらとそう並べ立てると、また前を向き道路に引かれた白線の上をバランス良く歩き始めた。今日はリヤカーを修理に出しているためお互い徒歩で、だからこそこんな風にアイツは何気ない調子でそんなことを言えたんだと思う。リヤカーを漕いでいると体力を使って話どころじゃなくなるから。
「……何も出来ない俺は俺じゃないのだよ」
「うん、知ってる。だからさ、これから俺と一緒に探しにいこうぜ。真ちゃんの出来ないこと、駄目なとこ。誰も知らねー緑間真太郎を、俺は知りたい」
今までにかけられたことない優しげな声色と、その言葉を前に俺は口を閉ざすしかなかった。声にならない想いが胸に溢れて、俺はその苦しさですぐ死ねるとも思ったし、この喜びだけで一生生きていけると思った。その時の感情の名は今でも分からない、と昨日高尾にぼやくと「いつか、分かるよ」と満面の笑みで返された。つまり高尾はその時の俺の気持ちが分かったということだろうか。
いつか、俺も分かるときが来るのだろうか。
- 高緑/最大公約数 2 ( No.530 )
- 日時: 2012/10/07 00:10
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: hFu5/zEO)
- プロフ: スライディングたかみどの日やでェ……(∵ )
◇
「……ッ、何でわかんねえんだよ!!」
ダンッ、と壁を殴る音。俺が生み出したその音は最愛の恋人である真ちゃんの顔のすぐ横で出来ちゃったってことは俺は真ちゃんに向かって振り上げた拳をギリギリのとこでようやく我に返って殴る位置を逸らしたって訳かあ。あっはは。何やってんの俺、いつものへらへら笑ってる高尾和成はどうしたよ。真ちゃん固まってるじゃんか。
「たか、お……」
「何で別れようなんて言うんだよ、俺、真ちゃんのこと大好きっつっただろ! お前も好きって、俺のこと言っただろ!? なら何でここで別れようなんて言葉飛び出してくんだよ……好きなのに何で別れなくちゃなんねーんだよ、なぁ!」
別れよう、と力なく呟いたのは十分前の真ちゃんだった。俺の部屋で特にエロいことをするわけでもなく、のんびりと本を読んでいる時だったから俺は当然の如く驚いて、とりあえず俺に何か悪いとこがあったのかを訊いてみた。答えはノー。じゃあ俺のこと嫌いになったのかって質問にもノー。じゃー何で別れんのって聞いたら、分かんないって言われた。
傷ついた俺は数秒前に激昂し、ただいま真ちゃんを壁際に追い詰めなう。真ちゃんは無表情だけどきっと胸中では不安なう。可哀相に、と何故か加害者である俺はそう思った。体格差なら俺は負けているんだから、突き飛ばして「死ね、うるさい、別れる」と三拍子を叩き付けたらそこで終わるのに。
「別れる理由があんなら、それよりいっぱい別れない理由探すから、だから一緒にいてくれよ……それとも、俺のこと、嫌いになった? 他に好きなやつ、出来たの?」
「……だから、それは違うのだよ」
「じゃー何なの、やだよ、おれ、別れたく、ねーよ」
何かもう辛くて辛くて、俺はそこで泣き出してしまった。真ちゃんは自分を追い詰めていたはずの男が子供のように泣き出してしまい、困ったようにおろおろしていた。ごめん、ごめん。悪いとこがあんなら、俺、頑張って直すから。泣き喚く俺を見て、真ちゃんは戸惑ったように自分の胸へと俺の頭を抱き寄せてなでてくれた。
「すまなかった」と小さく謝られたら、もう後は声が枯れるまで泣くしかなかった。真ちゃんがデレるなんて滅多にないことだから、喜びも混じった涙だと思う。真ちゃんがこれから先も俺といてくれるってことが分かって余計に嬉しくて、俺はさらに声を張り上げて泣いた。
結局、最後まで真ちゃんは俺を優しく抱きしめていてくれて。俺はまた真ちゃんの優しさに甘えてしまったのだ。
(俺はまだ、真ちゃんに愛されていたかったんだ。真ちゃんが思うより俺は強欲なんだよ。だからもっと頂戴よ、真ちゃんからの愛を、もっとください。
……愛で溺れて死ねるのなら、俺はそれで良いから)
◇
「真ちゃんの気持ちぐらい、俺は分かるんだぜ?」
意気揚々と告げてきた高尾の言葉に、俺は返事の代わりとして手にしていた本日のラッキーアイテムであるかえるの玩具をぶぎゅりとそのみっともなく緩んだ頬に押し付けてやる。想像通り高尾は「いひゃい」とたわんだ頬のまま唇を動かし俺に「やめふぇー」とじたばたと両手をばたつかせた。俺の考えていることが分かるのなら、何故俺がこうして玩具を押し付けているのか分かるはずだろうに。
「じゃあ、俺はお前の思っていることが分からなくても良いな」なんて、口が裂けても言ってやらないけど。
◇
友達でいられたらよかったね、俺たち。
そうしたらこんなに苦しくなかったかもしれない。息がもっとしやすかったかもしれない。こんな風に君を困らせることもなかったかもしれない。かもしれない、かもしれない、かもしれない。
でも、違うんだよなあ。
この苦しみを味あわなくちゃ、俺は一生恋はきらきらしてるだけだと勘違いしていたかもしれない。息がしやすいと、調子に乗って誰かの酸素まで俺は吸い込んでいたかもしれない。真ちゃんの困った表情も可愛いってのを知らなかったかもしれない。
そんで、俺が真ちゃんに想いを伝えなければ、このまま終わっちゃってたかもしれない。
真ちゃん。俺、前にも言ったけど。俺が真ちゃんのこと好きだからって、真ちゃんも俺を好きにならなくても良いんだよ。
男同士なんて無謀な恋愛、現実主義者で合理的な真ちゃんには合わないだろ? ちゃんと自分の進路を決めてる真ちゃんのことだから、問題が増えるだけだろ? この恋心は少なくとも、お前の人生にプラスとはならないんだ。ただただ、マイナスとして作用してばかりのくだらない恋心だ。
だから、どうかお願い。
俺とお前の想いを、たった一つにしようなんて想わないでくれ。
形が違っても、ばらばらでも良いから。
お前の想うような形で、いさせてくれよ。
◇