BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 青黄青 ( No.534 )
- 日時: 2012/10/10 00:41
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: hFu5/zEO)
- プロフ: なにこれきもちわるいはなしになった
夢だ。だって黄瀬がいる。いないはずの黄瀬が、俺の隣で昔みてェにきらきらした笑顔でこっちを見てる。もう二度と向けられることのない尊敬の眼差し。
——なぁ、何でそんなにキラキラ出来んだよ。モデルのせいか?
俺は声に出したつもりは毛頭無かったんだが夢の中ってのは都合が良いもんだ、黄瀬はくすくすと悦を滲ませた笑いを俺に見せ付けて淡い桃色の唇を小さく動かした。
「だってこれは夢っスもん。青峰っちが俺に抱いてるイメージが、そんまま現れてるんス。だからほら、キラキラしてるっしょ? それは青峰っちが俺のことをキラキラしてるって考えてるから。俺の存在はそんなに輝いてるんスねぇ、俺にとっちゃアンタが眩しい光なのに」
——何テツみてェなこと言ってんだお前。
俺は多少不機嫌になり、眉間に皺を寄せて愉快気に話し続けようとする黄瀬を威嚇した。黄瀬は俺の渋い顔も喜ばしいというように微笑んで指先に輝くそれらをまとわりつかせる。魔法使いみたいだ、小さい頃さつきと一緒に見たディズニーの、魔法使い。
「ふふ、青峰っち、気付きたくなかったんでしょ?」
「何に」
「誰も自分の後ろにいなかった、ってことに」
「……」
言葉を失った俺を黄瀬は「やっぱり」というように一笑してみせた。さらさらとした金髪は夢の中でも健在で、指に絡めたら現実のアイツのように良い香りがしそうだ。長いまつげを二度三度ぱちぱちと瞬きし、黄瀬は続ける。
「どんな気持ちだった? 俺がもうアンタを追いかけることをやめてたって気付いた時。黒子っちが既に別の道を歩んで火神っちとよろしくやってたのを理解した時。赤司っちが自分と同じ孤高の王様であるアンタと別種の生き物になってた時」
「……黙れ」
話し方とかつんと尖った顎の角度とか、全部作り物めいてて、どこか計算しているようで腹立たしい。出来る限り低い声で呟いたつもりだったが、俺の夢の中の黄瀬(と本人は言っている)は話すのをやめる気は無さそうだった。その端整な顔立ちを保ったままつらつらと続ける。
「緑間っちがアンタのスタイルを認められなくなったことを感じた時。紫原っちが素敵な友人からただのクラブの人間程度へと認識を変えちゃった時」
「おいテメェ、少しだま」
「桃っちがアンタのことを煩わしく思い始めた時」
「黙れっつってんだろーが!!」
かっと眼球に熱が灯り、逆に頭はさっと冷え切る感触。無意識の内に振りかぶった拳はギリギリのラインで踏み留まったので空中に固定され、だが左手はがっちりと黄瀬の襟首を掴んでひねりあげていた。
黄瀬はわずかに咳き込んでいたが、掴まれた状態でも笑みを崩さない。帝光中の時の制服を着込んでいるこいつは、妙に幼い風貌をしていて、殴ることを躊躇わせた。しょうがなく舌打ちだけで済ませ、乱暴に相手を突き飛ばそうとした。
——が、それは叶わなかった。
「どうしたんスか? 殴らないの、ぜんぶ夢なのに」
気付けば、黄瀬の滑らかな五指が俺の手首にぎりぎりと食い込んでいた。双眸には怪しい光が差し込み、普段と違う雰囲気に俺の背筋に嫌な汗が浮かぶ。黄瀬はにやりと口角を吊り上げ、挑発的に言った。
「俺を殴ろうと、セ.ックスしようと、殺そうと、どうしたって俺は夢の中にいるんだから平気なんスよ? これから青峰っちが俺をどんな風に扱っても、青峰っちの中にいる“俺”は死なないんだから」
「死なねェって……」
「死なないっスよ。死んでもすぐ、生き返る。青峰大輝の中にある現実の“黄瀬涼太”の存在が死ぬことを許さないから」
——何を、コイツは。
目の前がじわじわと黒に侵食され始める。ぐらぐらと足元がおぼつかなくなり、俺は膝から力が抜けていくのを感じた。みっともない姿を曝していることより、気持ち悪さの方が先に来る。
「ねェ、青峰っち。一回シようよ。そうしたら俺、中学の時の『青峰っちを犬みたいに追いかけている無邪気な黄瀬涼太』として、アンタの思うように啼いてあげるっスから」
「……きもち、わりィ」
「そんなこと言わないでって。青峰っちも、気持ち良いこと好きっしょ?」
——だから、ね?
まるで呪いのような言葉を再度呟きながら、黄瀬は俺へと、その桃色の唇を寄せるのだ。
現実とそっくりなこいつは、イエローの瞳を歪ませて————
■ドリーマーは想像に殺される、
(全部、夢なんだからさ)