BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

出尊♀ ( No.563 )
日時: 2012/12/05 23:32
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: .XV6mGg/)
プロフ: 似たようなお話ばっかりどすえ

 尊、とあたしの名を呼ぶ出雲はいわゆる京都弁というやつを使うので、二人きりでそういう雰囲気になった時、なぜか違和感を感じる。その違和感を感じるのはどうやらあたしだけみたいだ。以前バーに来ていた女の客たちが『こんなイケメン店長さんに京都弁で囁かれたらたまんないよ!』と喚いていたのを思い出す。
 ——あぁ、そうか。普通の女はこういう男が好きなのか。
 ぼんやりと思い出したとある記憶は、出雲が冷たい両手であたしの頬を包んだことでどこかに吹っ飛んでいった。サングラスの奥からあたしを見つめる眼差しには、甘やかな炎が揺れている。
「なに、考えとったん」
「……別に」
「尊はようわからんなぁ、まぁそんなとこも可愛いんやけど」
 さらりと口にした褒め言葉もあたしにとっては日常茶飯事のものだ。たいした反応を返さずに、ゆるやかな曲線を描いた彼の唇を指でなぞる。先ほどまでカウンターの掃除に勤しんでいた彼の唇は、柔らかいけれど冷たい。そんなこと口にしたら「じゃあ温めてや」なんてセクハラまがいのことを言われるのだから、本当にこいつは面白い。
「……かわいい、か」
 出雲が呟いた言葉を反芻すると、胸に嫌な感じが掠めた。
 可愛い。相手に恐怖を与える鋭い目つきで、破壊と傷しか生まない王の力を持つ、このあたしが? ……世界中で最も似合わない言葉だ。そんなとち狂ったセリフを吐くのは、どこを探してもこいつぐらいしかいないだろう。
 嘲るように唇の端を吊り上げてみせると、眼前の出雲は「んー?」と事を中断して不思議そうに顔を近づけてきた。
「今日はどしたん、尊。同じこと呟いてはるな」
「……お前、馬鹿だろ」
「また唐突やなぁ」
「……あたしみたいな怖い奴に可愛いなんて、馬鹿みたいなこと言ってやがる」
 こんなに怖いのに、とあたしはふいに右手を出雲の完全へとさらしてみせる。最近ネイルアートにハマっている野郎によって、あたしの右手の爪は艶やかな赤色に彩られている。
 その赤に負けぬ程の赤い炎を、あたしは右手に灯した。いや、灯すなんて表現じゃ生温い。それこそ彼を焼き尽くそうとするかのように、爆発的な炎を出した。
「……いつ、こんな炎で焼き殺されるかもわかんねーのに。よくもまぁ、お前は可愛いなんて甘ったるい言葉を言って抱きしめてられるな」
 珍しく饒舌なあたしに驚いているのか、それとも炎の勢いに怯えているのか(おそらく後者だろう)、出雲は黙ってあたしの言葉を聞いている。この調子じゃ、下半身も萎えてんじゃねぇか——なんて下衆な想像をしながら、つらつらと続けた。
「いつでもあたしは——この炎でお前を殺せる。あたしはお前の下でにゃあにゃあ鳴いてる子猫じゃねーんだ。……あたしは、牙を隠した、凶暴な獅子だ」
 ゴォ、と一層炎の勢いを強めると、真っ暗な室内が昼間のように明るくなった。同時に、お互いの表情もしっかりと見えるようになる。呆気にとられている出雲の表情が滑稽で、あたしはまた笑った。ほら、そうして怯えていろよ。
 ——化け物に愛など、感じなくていい。


「そうやなぁ。ほんまに尊は、たいそうな化け物や」


 溜め息と共に吐かれた言葉。それは求めていたものだったけれど、やっぱり言われてしまうと胸にずんと重く圧し掛かった。急に体全体が冷え、背筋が粟立つ。
 さっきまであたしの肌を撫でていた指先で、今度は頬をゆるゆると撫でられる。指先にはまだ熱が残っていて、こいつの指の冷たさと合わさり生暖かく感じる。生温さに頬を引っかかれ、そのむずがゆさに思わず眉を潜めた。

「……何だよ」
「そう、その顔」
「はぁ?」
「他のやからの前では、そない風に気ぃ張った顔しとき。強くてこわい、赤の獅子でおればええんや」

 いつのまにか穏やかに微笑んでいた出雲は、そしてまた冷たい指先であたしの頬に触れた。


「さかいに、俺の前だけは可愛い子猫ちゃんだけでおってな、尊」


 





■A coward is incapable of exhibiting love; it is the prerogative of the brave.






「……甘ったる過ぎんだよ、畜生」
 苦虫を噛み潰したような顔でそう言い放つあたしを見て、どこまでも甘ったるいこいつは何を思ったんだろうか。ただ一つわかることは、こいつは独占欲と勇敢さを同時に伏せ持つ男なんだということだ。







***

 /臆病なものは愛を表明することができない。愛を表明するとは勇敢さの現れである。


強い受け♀ちゃんが、攻めちゃんにその強さの劣等感を感じてるのが梳きです。自分が化け物だと自覚してる受け♀ちゃんを包み込むあまあまな攻めちゃんも好きだってゆってってゆってってゆっt(以下略)