BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 過去はたかみどでみどたか ( No.573 )
- 日時: 2012/12/24 12:28
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: .XV6mGg/)
- プロフ: 緑とモブ♀ちゃんが結婚して子供がいます注意
夏の日差しというのは言葉にしてみれば爽やかな響きを含んでいるが実際にはギラギラと容赦ない熱が自分の柔肌を焼き非常に困った代物である。光と共に降り注ぐ尖りを帯びた暑さに顔をしかめた。今日はせっかく家族三人で水入らずだというのに、なぜ化粧の崩れた汗だらけの顔で記念写真を撮らなければならないというのか。家族で遊ぶときは絶対写真を撮ろう、と結婚前に決めた主人との約束を今だけは悔やんだ。
ずっと渋い顔をしているせいだろう、息子と先を歩いていた主人が振り返った。
「どうした。疲れたか?」
「ううん。今日も暑いなって考えてただけ。こんなに暑いのに貴方は平然としてるわね。……あ、ほら、和人。そんなところ歩かないの、こけたら危ないでしょう」
主人と私が少し言葉を交わしている間にも、やんちゃな一人息子は面白そうに溝の中に入って駆け出してしまった。この猛暑のせいで溝は乾ききっており、薄い土の膜が捲れかかっているので、濡れる心配はないけれど、こけてしまったら大変だ。なぜ男ってのはああいう汚いところでも平気で遊ぼうとするのか。女である私には理解が出来ない。
「ちょっ……和人、いい加減にしなさい!」
私の注意に不機嫌そうに振り向いたが、息子はすぐに前へと進もうとする。こら、ちゃんとお母さんの注意は聞きなさい。さすがに焦りを感じて声を荒げようとした刹那、主人がぱっと走り出した。主人の背は高く、歩幅も同年代の人達よりも大きい。
主人はすぐに息子のもとへと駆け寄り、さっと両脇を抱え持ち上げた。息子は急に持ち上げられて目を丸くしたが、すぐ笑顔になり「お父さん、もっともっと!」と催促をし始める。まったく、と本日何度目かの溜め息をついた。
「あなた、ごめんなさいね……もう和人ったら」
「幼い頃は何でも興味が湧くものだ、しょうがない。若いというのはそういうことだ」
「……あら。その口ぶりだと、あなたも若い時に色々やんちゃしてみたいね?」
「俺だってこういう時があったさ。まぁ、俺の場合は高校生の時だけどな」
「ふーん。真面目なあなたが、どんなやんちゃをしたのかしら」
結婚した私が言うのもあれだが、主人はなかなかに真面目な性格をしている。しかし社交性もあり、責任感を持って仕事を着々とこなすので、その真面目さには好感を抱いている。職場の人達にも「緑間さんはすごいですよ!!」と褒められることもしばしば。素敵な旦那さんだわ、といつも思う。
そんな主人も、若い頃には色々したのだ。今の印象からは全く想像も出来ない。主人は私の言葉に「そうだな……」と視線を巡らせながら、自身の過去を振り返った。
「……同級生、と色々したな」
「同級生……もしかして、秀徳のバスケ部の?」
「ああ。ひどく軽薄そうな面をしているのに、なぜか人のことはよく見ていて、他人のどんな些細なことも見逃さない。そんなあべこべな奴だった」
同級生のことを語る主人の表情には、呆れたような、困ったというような色が見え隠れしている。しかし声は柔らかい。……そんな言い方をしたって、言葉の端々は丸みを帯び、聞いているこちらには優しげな印象しか与えないのに。
「ねぇねぇ、おとーさんもぼくと同じようにみぞを歩いた?」
「……同級生が、お父さんと張り合うのが大好きだったんだ。どんなくだらないことでも勝負をしようとしてきた。一度だけ、この溝の端っこをどちらがどれだけ長く歩けるか、競争したことがあったな」
「どっちが勝ったの、お父さん!?」
「ああ。勿論だ」
主人は息子にふんわりと微笑み(そうやって笑うと本当にうちの旦那さんは美人さんだ)、軽々と持ち上げて肩車をしてみせた。息子はきゃっきゃとはしゃぎながら目の前にある主人の髪の毛を撫でる。くすぐったそうに目を細め、主人はまた歩み出した。
その歩みに今度こそ遅れないようにと、私は隣に並ぶ。
「他には? 他には、どんな勝負をしたの?」
「……そうだな。どれだけの信楽焼きを持って走ることが出来るのか、とか……体育館のモップがけをどっちが早くかつ丁寧に終わらせられるか、とか……。夏にはどちらが先にラムネのビー玉を取れるか、スイカの種をどちらが遠く飛ばせるかもしたな」
「ぷっ! あ、案外かわいいことしてるのね」
「笑うな。俺だって今思えば恥ずかしい」
笑いをこらえる私を主人は苦々しい顔つきで諌めた。でも息子が「ぼくはやっぱりお父さんのむすこだぁ!」と叫んだので、何かもう、笑うしかなくなる。外だというのに「あっはっはっは!」と腹をよじって笑ってしまった。
主人は「だから笑うなと言っているだろう」と拗ねたように言い、黙り込む。今日は本当に珍しい。主人がここまで感情を素直に出しているなんて。同級生の力は偉大なのかなぁ、と頭の隅っこで考えた。
ひとしきり笑った後で、私は「それでさ」と主人に話しかけた。
「…………で、その同級生って、女の子?」
「そんな訳ないだろう。同じバスケ部だ、男に決まっている」
「へぇー、そうなんだ」
「……何だその顔は」
じろり、とにやにや笑いを浮かべる私を主人が一瞥する。決まりが悪いのか頬が赤く、声も少しだけ力がない。可愛くて、綺麗で、でもかっこいい生真面目な私の主人。
あまりからかっては可哀相だな、と思い、私は緩んだ頬を引き締める。そして、先ほどの彼の問いに答えようと、すました顔で言ってみせた。
「いや、だって——あなたのその『同級生』君のことを話す顔が、恋をしてる女の子みたいにキラキラしてたんですもの。妻としては、疑うのも当然ですわ」
「……阿呆か」
「やだ、和人がいる前でそんな言葉使わないでよ」
「誰のせいだ……」
端整な顔立ちを歪める主人は、そういう割には満更でもないような、そんな雰囲気を漂わしていて。眼鏡のフレームを押し上げる振りをして、その泣きそうな瞳を隠したことを私は黙っておくことにした。
主人の終わった夏と同じ暑さのまま、また今年も、この季節が過ぎてゆく。
■夏の彼に別れを告げた/夏は今でもここにある
「……あーあ、嫉妬しちゃうなぁ。その同級生君に」
「何を言ってるんだ、お前は」
***
あの思いを伝えられなかった緑間君はもう普通に奥さんと子供がいるし高尾君はそろそろ結婚するんだぜ!な彼女がいて、それでも恋愛とは別の形でお互いがお互いの過去を心の中に縛り付けて、今でもきっと逃げられてないたかみどでみどたかなお話