BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

球磨善   ( No.574 )
日時: 2012/12/27 22:48
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: .XV6mGg/)
プロフ: ぐろくはない




「『善吉ちゃんに、腕なんていらないでしょう?』」

 その声に反応し、喉の奥に酸っぱさが込み上げた。苦さにも似た味は彼と付き合い始めてからは馴染みのものだ。第三者からしてみれば、彼の声はただ『恋人へ向ける優しい声』にしか聞こえないだろう。それほど彼の声と表情、身振り手振りは優しく、甘さを含んでいる。

「……いるに、決まってんだろう」
「『でもそれは、めだかちゃんを抱きしめて、喜界島さんの仕事を手伝い、高貴ちゃんと手合わせするための腕だろう? 僕にとってそんな腕は、いらないと同じ意味さ』」

 体の芯はすっかり冷え切っていて、脳内には麻薬でも打ったみたいに朦朧としたビジョンしか残っていない。くらくらと、だが感覚だけは妙に研ぎ澄まされている。気持ち悪い、と吐きそうになり手を口に宛がうと、その手すら球磨川に掴まれた。
 これだけ人間離れした言葉ばかり呟いているくせに、体温はやけに生温く人間らしさを感じた。整えられた爪先が、明かりに照らされててかてかと光り輝いている。眩しい。

「『あれ、また吐くの。さっきあれだけ中身を出してあげたのに、おかしいなぁ』」
「……きもちわるいんだよ」
「『それは僕のことが? それとも、胃や頭のことかな。どちらにせよ、そういう考えを持つ脳みそもいらないよね。後でちゃんとしておこう』」

 何を、と聞き返そうとしたところで、妙に胃の中が空っぽなことに気付いた。ああ、そうか。そういえば先ほど球磨川に腹を殴られて、しこたま胃液をぶちまけたんだった。どうりでこれだけ喉の奥が苦い訳だ。
 自分に起きたことだというのにそれはまるで夢の中の、他人の出来事のようで。左目分の視界しか今の俺には見えないので、右側で何かごそごそと準備を始めている球磨川の姿も見えない。

「『腕、痛いかい』」
「……そうでもねぇよ」
「『そうかい、まぁ今ぐらいしかその痛みは感じられないからね。僕としては、後数分の痛みをしっかりと楽しんで欲しいところだな。生きてるってのはね、痛いってことだから』」

 球磨川の言葉で、縛られた両腕がぎしぎしと軋みを覚えた。蕩けそうな言葉が甘くて甘くて、喉の奥に詰まって窒息しそうになる。生きてるってのは、痛いってこと——じゃあ、今の俺はまだ生きてるってことなのか、あぁ、そうなのか。
 薬が効いているのか、痛覚はなかった。ただ苦しいほどの甘さと心地よさが胸を占めている。本来ならば俺はそこに留まっていたいと願わなければおかしいんだけど、この瞬間だけは「早くこの心地よさから抜け出したい」という警告めいたものを感じていた。

「『いらないものはね。全てそぎ落としちゃえばいいんだよ、善吉ちゃん。余分なものも全て集めて人なんだなんていう奴らはいるけどね、あれは結局余計な贅肉を落としきれない自分こそ正しいと思いたいが故の言葉なのさ』」
「……いらない、もの」
「『そう。僕はね、善吉ちゃん。大好きなものは、大好きな成分だけ抽出して、それがどれだけ小さくても良いから——その大好きな部分だけを手にしていたいんだ』」


 ——『それがたとえ、心臓だけになってもね。』

 どこか嬉しそうな球磨川の声と共に聞こえた音は、さて、チェーンソーの刃が回転するものだったのか。





■だぁいすきなあなただけ!








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久しぶりに球磨善書いたけど正直いまめだかどうなってんのか全然わかんない