BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- 出尊 ( No.575 )
- 日時: 2012/12/29 00:05
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: .XV6mGg/)
人気のないバー。カウンターの下に縫いとめられた格好であるのに、尊は一切の抵抗を見せなかった。
金の双眸を草薙に向けることなく、手持ち無沙汰というように唇に挟んだ煙草を揺らしている。
「みこ、と」
普段はカクテルグラスをぴかぴかに磨き上げる、繊細な彼の十指。白魚のようなそれらは今は周防の何も身に着けていない裸の肩を力強く掴んでいた。力を入れ過ぎているのか、周防の肌は鬱血している。更には肌が引き攣り、肩骨が歪に浮き出ていた。屈強な周防の肌がそうなってしまう程だ。もちろん草薙の指は血の気を失っており、整えられた爪の端からはわずかに朱が滲んでいる。
「好きや、好きなんや……俺は、お前のことが……」
好きだ————そう告白する草薙の表情はあまりにも苦しげで。普通なら、恋慕を抱く相手をこんな風に抱きしめなどしない。もっと優しく、相手を労わるような柔らかい抱きしめ方をするだろう。しかし草薙は違った。いつもの柔和な笑みを浮かべる彼とは真逆の、まるで自身の罪を告白するような。そんな重苦しさが露わになっていた。
ぎり、と新たに力が指先に加わる。「好き」また、一段と強まる。「好きなんや、尊」血は球となり、やがては指先を伝い始める。しかし草薙の力は弱まらない。「愛しとる、愛しとる……お前のことが、ほんまに大好きなんや」繰り返すたびに、その想いも、力も深さを増していく。
周防はけして、痛い、とは言わなかった。ただどこか遠くを見つめたまま、紫煙を燻らしている。眠たげな金の瞳には店内の光が射しこみ、とろりとした灯りを灯していた。
そうしている間にも、目の前の草薙に体を引き裂かれそうになっているというのに。周防のそれは、まるで赤ん坊が遊んでいるものだと感じているような素振りだった。鬱血した肩口にちらりと気ままに視線を寄越し、口の端を吊り上げる。
「……お前は不器用な奴だな、草薙」
周防がそう嘲ってみせると、苦しげに息をしていた草薙は、初めて指先の力をゆっくりと解いた。骨に達そうとしていた指先は、ようやくそこで侵食をやめる。
草薙のサングラスの奥の眼が、きゅう、と泣きそうに歪んだ。しかし涙は一向に流れる気配はない。眼前の周防の肩口に痣が出来ているのが視界に入ると、彼の口元にニヒルな笑みが浮かんだ。その笑みは、泣かまいとしているようにも思えた。
「そのまま、突き破っちまえば良かったのにな」
自らの肩を眺めて愉快気に周防が呟いた。次にちらりと色を失った草薙の指先を見ると、くつくつと喉奥で密やかに笑う。草薙はあぁ、と呆けたような声を発した後、自分の失態を取り繕うかのように「阿呆」と叱咤してみせた。「……そんな簡単に、食われるわけないやろ」くたびれたような声色は、ひどく穏やかなものだった。
■一瞬、そして刹那の食事
「……まぁ、こっちとしてもそんなに簡単に食われてやるつもりもねぇから、安心しろ」「はは、どこを安心すればええねん、どこを」額に浮かんだ汗を拭う草薙は、安堵したように息をついた。
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いつもはストッパーで飄々とした草薙さんがセルフ据え膳した尊さんの色気にやられていただきますしそうになるけど、ぎりぎりのとこで自分の理性とかに気付いて食べるのを中断するお話でしたった。
とりあえず最終話が辛すぎてささめさん泣きそう。泣けないけど泣きそう。赤の王よ永遠であれ。