BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

礼尊ちゃん  最終話ネタバレ ( No.577 )
日時: 2012/12/31 00:15
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: .XV6mGg/)
プロフ: http://shindanmaker.com/123977

《最終話ネタバレ注意》


















 雪に似ていた。
 あれだけの力を溜め込んでいた体は、見た目に反して紙のように薄く、そして軽かった。王の力を全て抜き取られてしまった、彼の亡骸。温かかったはずなのに熱はどんどん外気に奪われ、指先から冷えていくのがわかる。冷たくて、軽い。彼の亡骸は雪に似ていた。

「……周防、死んだのか」

 秘密話をするように、息絶えた彼の耳元に唇を寄せた。返ってくるのは痛いほどの沈黙。あぁ、彼はもう死んだのだ。薄く閉じられた目蓋はぴくりとも動かず、長い睫毛には雪の粉がふわふわと纏わりついていく。血の気を失った横顔は変わらず美しかった。
 彼の腹部から流れ出ている血の量は決して少なくない。足元の雪は彼の血で黒く染まり、今度は自分の手のひらをじわじわと濡らしていた。


「もう、お前は——死んだのか」

 
 自分に言い聞かせるように、繰り返す。反応は返ってこない。形の良い彼の唇はわずかに開いていた。今にでも悪態をつきそうなのに、呼吸音すらしない。呼吸を止めたまま、静かにその体を自分へと預けていた。
 不思議と涙は出ない。乾ききっている、とさえ思った。彼への涙は既に乾ききってしまっていた。空虚な心だけが、からからと音を発して胸のうちにある。

「……なぁ、周防」

 だから、こいつはもう死んでいるのに呼びかけてどうするんだ——未だ甘えを捨て切れていない自分を嘲るように、浅い笑いを零した。本当に、甘ったれている。最愛の彼を手にかけたのは他の誰でもない、自分というのに。
 冷たい空気を吸い込むと、肺が凍りついたように痛んだ。ついさっきまで、あれだけ熱い炎を感じていたはずなのに。
 彼の炎を失ったこの世界は、ひどく冷たくて、そして————


「————お前がいない世界は、こんなにも空っぽだったんだな」


 言葉に変えた瞬間、どうしようもない孤独感が身を包んだ。この世界で独りになってしまった、という事実が肌を刺す。
 赤の王と青の王は同時に存在し、またお互いがお互いを制御できるように、ぴったりと背合わせになっている関係でなくてはならなかったのか。こんな風に一人になって、残された此方はどうしたらよいというのか——当事者である自身に繰り返し問いかけるが、答えは出ない。体の端々から、自分が一番恐れていた孤独がやってくる。

「……なぜ、一人で」

 思わず口にしたのはそれだった。生を失った彼の軽い身体を抱き寄せ、言葉を続ける。

「どちらかが欠けては意味がないだろう、なのに、どうしてお前は……どうしてお前は、俺を置いて先にいってしまったんだ」

 すおう——小さく彼の名前を呼び、抱きしめる力を強めた。雪が薄っすらと降り積もった彼の頬はやはり冷たくて、それが余計に死んだということを実感させて。

「……お前がいないなら、俺は、この世界で一人ぼっちじゃないか」

 なあ、周防。そうだろう——そう言って息を吐こうと顔をあげた拍子に、何故か無性にわめき散らしてしまい衝動に駆られた。そんな衝動すら全て喉の奥に押し込んで、俺は冷たい彼の肩口にゆっくりと顔を埋めた。












■世界でひとり、恋をしよう?





 
(身が竦む程の孤独の前に、俺は立ち上がる気力すら無い。だがお前が俺のこの心の隙間にいてくれるならば、そのわずかな満足感だけで俺は生きていけるんだ。だから、お願いだ。せめて俺の中でだけでも、お前と二人でいさせてくれ)









*****



礼尊へのお題 『孤独の中で 泣きそうな顔で笑って 君は 「いつまでも心の中に居る」 と言いました。』


 ……えっ、えっ(∵)
 お題と全然別な感じになったとかそんなんささめさんのせいじゃないです(全力逃走)