BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

出尊 ( No.589 )
日時: 2013/01/23 22:55
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: .XV6mGg/)
プロフ: 幸せないずみこちゃん

■一匙の幸せ









 遅く起きてきたのは自分だというのに、うちの王様は平然と「冷てェ」と俺の手作りスープにケチをつけてきた。お前がもう少しはよう起いや、と丁度その時磨いていたグラスで頭を小突いてやろうと思ったが、そんなことしたらグラスごと右手を燃やされてしまいそうだ。ハァ、と普段と変わらず溜め息を一つして黙っておいた。

「……アイツらは」
「あぁ、八田ちゃんたちは皆でアンナのお洋服を買いに出ていきおったわ。おかげで荷物持ちおらへんのやけど……尊、お前どうせ暇やろ。折角やしはよ着替えてこい」
「眠い」
「だらだらしとるからや。何ならこのスープ頭からひっかけて、目ぇ覚まさせたろか?」

 そうしてにこりと笑んでみせると、よりいっそう眉間の皺が深く刻まれる。金色の双眸を不満そうに細めて俺を見るけども、反論する素振りはない。自分がだらだらしていたという自覚はあるわけか。くっくと笑いを噛み殺し、煙草を咥え直した。
 尊はぼんやりと無人のソファーを眺めていたが、やがて「スプーン」とだけ口にした。その拍子に欠伸が込み上げてきたのか、くあ、と形の良い唇が大きく開かれる。

「ん、スープ飲むんか? 冷たくなっとるやろ。ちょい待ちぃ、温め直すから」
「……腹減ってんだよ、これでいい」
「腹の虫ぐらいちょっとぐらい我慢しぃ。ほら、その器貸しや。代わりにチャーハンでも作ったる」
「いいっつってんだろ。お前の料理だ、冷めたからって不味いわけでもねーよ」

 ——あらあら。
 思いがけない言葉に、俺の方が目を丸くする。言った本人は何の気も見せずに冷めたスープに手を付け始めていたというのに。びっくりし過ぎてスプーンを渡していた俺自身に再度驚いた。
 アンナのために作ったトマトスープ。まぁ、確かに尊の言う通り、冷めたからといって味が落ちるようには作っていない(そう自信が持てるレベルには俺は料理が上手いはずや)。だが、冷めて残りものになったようなそれをわざわざ食べようとする者もいないはずだ。

「……愛されとるなぁ、俺は」
「あァ?」

 無意識の内に零していた言葉に、尊は顔を上げる。口に挟んだままのスプーンがふらふらと重力によって揺れていた。またそんな子供みたいな食べ方しおって、ほんまに。八田ちゃんたちがいないからこそ、そんな風に食べることが出来るんだろうが。

「いやいや、何でもあらへんよ。……あぁ、スープだけや足りんやろ? 昨日うまいハム貰ったんや。それで何か作るからちょい待っとき」
「……やっぱ、チャーハンも食わせろ」
「はいはい、仰せのままに」

 ——やっぱり、食べるんやないかい。
 耐え切れずに小さく吹き出すと、尊はばつの悪そうな顔をして「うぜェ」とそっぽを向いた。








***
冷めたスープ/(無防備すぎるよ)/あいされてる、ということ




幸せないずみこなう! いずみこなう! いずみこいずみこいずみこなう!(息絶え絶え)