BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- いずみことたたみこsss ( No.592 )
- 日時: 2013/01/23 23:21
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: .XV6mGg/)
【K/出尊】
■どうしていつも、間違える?
間違えた、と言うなら最初からや。もしも俺がアイツと出会わへんかったら、アイツは俺と出会わずにただの喧嘩好き(と言ってもアイツからふっかけることは無かったけども)で終わって、赤の王なんていうたいそうな身分にならんでも良かったかもしれんな。もしくは、アイツの上空に現れたダモクレスの剣を見て、怯えてしまえば良かったのかもしれない。自嘲めいた笑みを浮かべた、既に傷だらけのアイツの手をとったことから間違いやった。力になりたい、こいつの傷を癒したい——そんな気持ちを抱いてしまったことからが、すでに間違い。何て残酷な答えなんやろ。手をとったことが間違い、だなんて。そして今回は、一人で行こうとしたアイツの手を放したことが間違いなんて。矛盾している、そう、矛盾してたんや。アイツと俺は。しなくていいことをして、しなくちゃいけないときにしてやれなかった。(何で俺は、いつだって間違ったことしか出来ひんのや、尊)
■君が居ない、息が出来ない/無邪気に笑って、終わらせてね
「どうせ終わるんなら、いっそ晴れ晴れした笑顔で終わらせてくれへんか? 思い切り幸せそうに笑って、そんで死んで欲しいわ」
「……何言ってんだお前」
「だってお前、もう終わらせるって決めたんやろ? じゃあ、これが俺の最後のお願いや」
明日の晩御飯は何がいい?——そんなとりとめのないことを呟くように、草薙は笑った。バーの開店時間はすぐそこまで迫っており、手元のグラスを忙しく磨いている。天井のライトが磨かれたグラスに反射し、鮮やかな光を反射する。その光を煩わしそうに眺めながら、周防は草薙の言葉を鼻で笑ってみせた。
「アホか」
「アホやないって。立つ鳥後を濁さず、ってゆうやろ」
「安心しろよ。波もたてずに消えてやるから」
「あぁ、そうしてくれると助かるわ」
丁寧に磨かれたグラスに微笑を零す。すると、草薙は思い出したようにグラスをカウンターにおくと、短くなった煙草を指で挟み紫煙を吐いた。自分の顔の辺りに煙がかかるが、周防は微動だにしなかった。
「きっと、俺はお前がおらへん世界では息も出来んやろうしなぁ」
「……だから、俺がいたって証を残さねェまま、俺に死んで欲しいのか」
「まるで自分の死期を悟った猫が、自ら飼い主の元から去ろうとするみたいに、な。……猫って割りには獰猛過ぎるけどなぁ」
「ハッ、言っとけ」
草薙の比喩をせせら笑い、周防は何気なしに左耳のピアスに指で触れた。なぜか、その銀色がずしりと重くなったような気がして。
【多々尊】
■くだらないと吐き捨てるように泣く
十束が死んだという現実は、涙という対価を払うには少々チープ過ぎた。あんな奴は誰かに恨まれるようなことはしない。俺のような奴にも物怖じせず『キング! これつけて!』なんて近所の小物屋で買った猫耳をつけようとするほど肝っ玉がでかいのだ。それに、カウンターに傷をつけられ般若と化した草薙に対して「俺が直すから安心してよ!」というなんとも頼りない発言をしてあの般若を落ち着けさせるほどの力がある。腕力こそないが、それに代わる適応力というか、コミュニケーション能力というか。そういう、人が人の中で生きていくための力が十分にあったのが十束多々良という男だった。
「……アホか」
——何を今さら、思い返している。
舌打ち混じりに自分を叱咤し、吸いかけの煙草を焼き尽くした。夕陽に染まりつつある、ところどころ煤に汚れた部屋(俺の寝起きが悪い故に出来てしまった)は、しんと静まり返っている。
もしもこの家の主が戻ってきたら『だから部屋の中で吸うなや! カウンターに匂いが残るやろ!!』と目を三角にして掴みかかってくるだろう。隣では体格の良い男が『く、草薙さん落ち着いてくださいよ!』と今日もコンビニで買った何かしらを頬張りながら慌てるか。あの小さなカラスは俺を尊敬しているから、きっと大人しくカウンターに座り皆が降りてくるのを待っているはずだ。その隣には、ルビーのような赤い瞳をしたあの少女が無言でビー玉を見つめ、俺たちが騒いでいるのを見透かしている。そして、そんな少女とカラス達を『二人とも兄妹みたいだねぇ』とおかしそうに笑いながら、古いビデオカメラを構えているのが————そこまで考えたところで、俺はようやく自分の頬が濡れていることを悟った。
「……はっ、くだらねェ」
今までの甘ったるい思い出と共に、自嘲さえをも吐き捨てた。
■終わりまで一緒に居させて欲しいのに/ずっと二人だけで歩いていく
「確かに俺はアンタと最後まで一緒に居たいと言ったはずだけどねぇ。でも、俺がそういう意味で言ったわけじゃなかったってことは、さすがのキングも理解してるよね?」
にこにこと笑うその端整な顔立ちが恐ろしくて、周防は目を逸らした。しかし逸らそうとした先に回り込むと、十束はすぐさま頬を掴んで逃げられないように固定する。「っぶ」と無表情な周防には似つかわしくない声が洩れた。その声を聞いた十束は、先ほどまでの腹黒そうな笑みから一転、子供じみた愉快そうな笑みへと変わった。
「っはははは!! あ、あのキングが!! 年末にお笑い番組見ても吹き出さなかったキングが、あのキングが……吹き出すとか、レア過ぎ————って痛いよ痛い痛いってば! ちょ、手首とれちゃうとれちゃう!」
「……本当にとってやろうか」
ぞっとするほどの低音で言い切った周防は、真顔のまま十束の手から逃れた。元々握力のない十束の手はあっさりと離れ、その代わりに周防に握られたことによる痛みが彼の手首を支配する。
「んもー……容赦ないんだからアンタは」
「テメェがくだらねーことするからだ」
「スキンシップだよ、失礼だなぁ」
二十歳越えの男に頬を膨らませられても、イライラしか生まれない。周防は出来るだけその顔を直視しないように、再度顔を背けた。十束は「あぁ、またそうやって!」と呆れたような声をあげる。
「……うぜェ」
「そうやってうぜェだのきめェだのやべェだの、単調な言葉を繰り返してたら脳みそが駄目になっちゃうよキング? あっ、そうだ! 今から俺と一緒に脳トレしようよ!!」
「しねェよ」
「えー、時間はたっぷりあるのに?」
十束は不意に両手を広げ、周防にその背景を見せ付けるように立ち上がった。座り込んでいる周防よりも目線は高くなり、周防の視界は広くなる。
十束の背後に、真っ白い一本の道が見えた。
「二人だけで歩くだけなのも、退屈だろ? だったら楽しく、面白いことをたくさんしながら歩いていこうよ。……アンタも俺もどうせ暇なんだから、さ」
どこか有無を言わせない、そして、周防の気持ちを全て見透かしたような物言い。へらりとしたその笑みに乗った真意に気付いた周防は、はぁ、と小さく肩を落とした。どうやら道は長いらしい、と。
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詰め詰め
ちなみに御題は診断メーカー?様から