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Re: 【色々】Hello,Microcosmos!【短編】 ( No.607 )
日時: 2013/02/13 23:09
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: .XV6mGg/)

■さようならいとしきあかいろよ





/さようならあいしたひと(さよならなんて言う資格、俺にはないのに。お前の首を落としたのはこの汚い両手だ)

 
「この人殺しが!!」
 と吠舞羅の一人——確か伏見君のお気に入りの……ヤタガラス、でしたか。彼は憤怒の形相で、先ほどの言葉を私に向かって叫んだ。周防亡き今、吠舞羅の最高権力者になった草薙出雲が、そんな八田美咲の頭を叩いた。あの細身でどれだけの力が出せるのやら、殴られた八田美咲は怒っていたことすら忘れて後頭部の痛みに涙する。その涙には周防が死んでしまったという悲しみによるものも含まれているのだろうが、私は知らない振りをし、つんと澄ました顔で車内へと戻る。
「おい、待て青服!! テメェ尊さんを殺しておいて——……」
 彼の言葉が続くのも無視し、扉を閉じた。閉じる拍子に断末魔のようなものが聞こえてきたので、草薙出雲が物分りの悪い八田美咲に制裁を下したのだろうということは容易に想像出来た。
 車内には私しかおらず、しんと静まり返っている。冷たい扉に背を預け、膝からずるずると崩れ落ちる。先ほどの八田の表情を思い出しながら、はっはっと小刻みに息をつく。八田美咲は、まだ幼い雰囲気を残した顔立ちの上に、私を視線だけで殺さんとばかりの怒りを載せていた。自分の大切な人を殺した敵への、憎悪。
「……それでいいんですよ、貴方達は」
 自嘲気味にそう一人ごちる。誰に向けたのか分からない笑いは、虚空に消えてゆく。大将が弱いところ見せてはならない、と必死に押し込めてきた感情がようやく溢れ出てきた。赤の王を刺し殺した感触は未だ手の内にはっきりと存在しており、これから先二度と消えることはないだろう。落としたはずの血がまだ残っているようだった。
 今まで人を一人も殺さないような綺麗な道を歩いてきたわけじゃない。自分の手を汚さずに、誰かを奈落の底へと突き落としたことなんて何度もある。そんなことをした自分の過去を後悔をしている訳でも、恥じている訳でもない。
 だが、今だけは——愛する彼を手にかけた自分の手が、ひどく罪深いように思えた。したことのない後悔や、辛さや、切なさが自身の胸の内で暴れまわっていた。
 隙あらば暴れようとする、胸中の熱。それらをけして逃がさないように、辛いなんて誰かに悟らせぬように。
 私は再び決意をして、立ち上がる。
「……すまない、周防」
 お前の首を抱いて、私はまだ、生きていく。





/さようならいとしきひと(なぁ、本当はさよならなんて言いたないんや。お前のことをまだ愛している俺を、どうかまた、女々しいなと笑ってくれ)

 いなくなったなんて実感、俺には小指の爪ほども湧き上がってこなくて。せやから、悲しいとか、喪失感とか。人間としてないとおかしいものすら今の俺は空っぽやった。ただ頭と左手を失ったこのチームを何とか右手だけで立たせていないといけないと、それだけが俺のこの数日間の唯一の支えのようなもので。……だから、八田ちゃんに「吠舞羅はもう終わったんや」と告げたときも、別に泣きながらだったわけやないんや。足元が奇妙な浮遊感に包まれた、ほんまにそれだけやったんや。
 軸を失ったコンパス、とでもゆうたらええんやろうか。ほんの数週間前までは俺は気丈な顔をしてくるくるとこの世界を楽しんどったはずなのに、気付けば軸すらなくて、どこに置いたらいいのかわからないまま、ずっと一人で不恰好に踊り続けとる。
 それを間抜けだと、お前のことやから馬鹿にするみたいに、喉の奥で小さく笑うんやろうな。ほんま、お前がおらんくなっても、不思議とお前の想像は出来るわ。こんな風に惨めったらしくお前と十束の死を引き摺ってる俺に向かって、皮肉めいた笑みを浮かべて「女々しいな」なんて言うんやないかって。
 そんなこと、絶対に起こらない。
 起こらないってこと、わかってる。
 わかってる。わかってる。わかってる。何度でも言える。俺は十束の死も、お前の最期も、きちんと受け入れられてるんや。受け入れて、今までの思い出を小奇麗な箱に仕舞いこんで、まるで宝石を手に取るように、懐かしそうに眺めることが出来る。
 ——でも、でも。
「……ごめんな、尊」
 頭では理解しとるけど、体は言うことを聞いてくれんのや。死にたい、死にたいゆうてる。毎日お前と十束のおらん朝を迎える度に、今の自分の世界は全部嘘っぱちやないんかなんて疑ってしまう。お前が横になってない昼下がりのバーのソファーを見つけると、目の前が真っ暗になるんや。
 なぁ、女々しいやろ? 普段の俺らしくない、って思うやろ?
 だからお願いや。「女々しいな」って、今の俺に幻滅してくれてもええから。こうして涙を流す俺の隣で、あの日と同じような笑顔をください。






/さようならだいすきなひと(まだ残ってるの、あなたの赤色、ぜんぶ)


 あなたはいつだって、自分が帰ってこられる場所があるかどうかにおびえてた。
 帰ってくる場所が他の誰かによってこわされていないか。それはこんな自分を受け入れてくれるのか。何よりあなたにとって大切だったのは——そんなあたたかい居場所を、自分でこわしてしまわないか、ってこと。
 だれよりも強いあなただけど、だれよりもその内側はもろくてはかなかった。私もタタラも、イズモもミサキも。サルヒコだって、リキオだって、みんなわかってた。みんなあなたより弱かったけど、みんなあなたの弱さを知ってた。
 ……大好きだったの。みんなみんな、あなたのことが大好きだったの。あなたの力をもとめてるんじゃなくて、ミコトっていう存在が、みんな大好きだったの。ねぇ、少しでもそれはあなたに伝わっていたのかな。
 大好きなあなたと、ムードメーカーのタタラがいなくなったホムラは、少しだけさびしくて、しずかだね。イズモはつかれてるし、ミサキもおちこんでる。
 あなたはいなくなってしまったけど、あなたの赤色は、たしかにわたしたちにえいきょうしてる。そう考えたら、これはいけないことなんだろうけど、私のむねはあたたかくなった。まだミコトたちの赤色はここにあるんだなって、うれしくなったよ。
 ——ミコト、あなたの赤はまだあたたかい。
 ここにはあなたの帰ってくる場所が、ちゃんとあるよ。
 あなたのいた証も、ちゃんとあるからね。








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礼尊→出尊→尊アンの順です
VD短編に一切触れてませんどうしよう
そして過去レス漁ってたら大変な間違いしてたことに気付いてて申し訳ありませんささめのこと殺していいですよ