BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

VD詰め/黒バス ( No.609 )
日時: 2013/02/14 23:40
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: .XV6mGg/)

・高→←緑♀/サディスティックなチョコレイト、


 チョコ、頂戴よ真ちゃんっ!————普段のように、そう冗談めいた笑いを浮かべてくれたらよかったのに。先ほどから、布団の中で何度も思い返している。
 何故バレンタインデーという行事があるのだろうか。お菓子会社の策略のせいか。私はただ高尾にチョコレートを渡したかっただけなのに、一日中妙な雰囲気が漂っていて結局渡せなかったではないか。校内では朝昼放課後構わず男女が真っ赤な顔で向かい合っていて。そんな場面を繰り返し見せ付けられる私たちの心情を考えたことはあるのだろうか。
 高尾は朝からどこかそわそわとしていて「バレンタインデー」「チョコ」「本命」という言葉が近くで聞こえる度にこちらに分かるほどびくりと体を震わせていた。
 本人は普段のハイスペックぶりを発揮しようと「今日などこもラブラブだなー真ちゃん!」と微笑もうとしたに違いない。しかし実際は「今日はひょほもラビュラビュやなーぢんぢゃんッ!」と噛んでばかりだった。ぢんぢゃんとは誰のことなのだよ、おい。

(……馬鹿め、馬鹿尾め)

 ナイトキャップを目深にかぶり、潤んできた目元を周りから見えないようにする。周りといっても今私が寝ているのは自宅の自室だし、もちろん一人で寝ている。目元を隠したのはあくまでそうしないと自分のプライドが崩れてしまいそうだったからだ。
 ——そんな時だ。
 ブルブル……と唐突に枕元の携帯がバイブ音を経てた。就寝時には着信を全てバイブ音にしているので、これはつまり誰かが電話をかけてきたということである。「もしや」という気持ちを抱いて急いで携帯の画面を開くと、予想通り「高尾和成」の四文字がそこにあった。
 まどろんでいた脳内をたたき起こすために、頬を一度叩く。そして生唾をゆっくりと飲み込み、電話に出た。

『…………あ、真ちゃん?』
「なんなのだよ。こんな、夜遅くに」
『ごめんね? あ、もしかして起こしちゃった? なら、電話切るけど』
「丁度明日の小テストの範囲を予習していたところだ。気にするな」
『あー……そっ、か。えっと……そうだよなー、明日は小テストかー、っははー……』

 乾いた笑いが受話器越しに伝わってくる。昼間学校で会ったというのに、なぜかその声はひどく懐かしく、そして遠くに感じられた。胸の奥から湧き出てくる、寂しいという感情。
 こうして高尾が電話を寄越してきたのは、紛れもなく、今日という日を未消化にしてしまったことを悔やんでいるためだろう。残り少ない十四日をせめて普段通りに、と思った故の行動か。

「……お前はどうなんだ。明日のテストは」
『あぁー、俺? 俺は、そだなー……まぁ、いつも通りにやるわ。平均とれたら儲けもん、ってな。真ちゃんはきっと満点だろうけど』
「人事を尽くしている私が、満点以外をとるわけがないのだよ」
『はは、確かに』

 口数が少ないこいつというのは珍しく、だからこそ余計に、今高尾が緊張しているということを感じさせられた。携帯を握る手にじっとりと嫌な汗をかく。高尾の緊張が電波に乗せられてうつってしまったようだ。
 高尾の同意を最後に、会話が途切れる。真夜中のため大きな物音は特にしない。人の声すらも、私たち二人の間からは消えていた。
 こうして黙り込んでいたら、きっと十五日はすぐにやってくるだろう。そうして私たちはまた、普段と変わらない日常を過ごし始める。バレンタインデーなんていう安っぽい行事なんて忘れて、今日伝え切れなかった思いすらも置き去りに。

「……なぁ、高尾」

 踏み込んでいたのは、私の方だった。
 乾いた唇で、自分の声を噛み締めるように。しんと静まり返った夜の中、囁くように。私たちの“ただの二月十四日”を終わらせていく。

「実は今日、お前にチョコレートをやろうとしたんだが、あいにく家に忘れてしまっていてな。一日遅れで悪いが、明日の朝渡してもいいだろうか」
「チョッ…………チョコ、レート? 真ちゃんが、俺に?」

 わずかに、高尾の声が震える。その震えを取り払うために、私は「あぁ」と大きく頷いた。

「そうだ。焼き菓子だから、一日程度じゃ腐らないとは思うが。気になるようだったら作り直すのだよ」
「ッッッッッいや!!!! それはっ、大丈夫ですっ! 真ちゃんの作ったもんなら俺、岩塩でも墨でも食えるし!!」
「……わかった。安心しろ、ただのガトーショコラだ。岩塩でも墨でもない」
「俺の人生の中で一番好きな食べ物はガトーショコラなんだよ真ちゃん!!」
「嘘をつくな馬鹿尾。————と、すまない。母にそろそろ寝ろと言われた。切るな」
「あっ、夜遅くごめんね真ちゃん! 明日、楽しみにしてるな!!」
「ああ。おやすみ」
「お、おやすみ!」

 高尾の元気な声を終わりにして、耳から携帯を離した。握りすぎて体温が移ってしまったそれを、ぼんやりと眺める。携帯の画面には「2月15日0:00」と零が綺麗に並んでいた。
 どうやら終わったようだということを知り、私はひとり静かに笑った。






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たかみど♀の長いのをなぜ書いているささめ
黄青とか火桃黒とかあっただろささめ