BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- たかみど ( No.617 )
- 日時: 2013/03/22 01:26
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: QGJGVn1c)
「お前は神様に愛されてるから、きっと俺とは結ばれないよ」
高尾はそう笑い、テーピングの済んだ俺の指先にそっと唇を触れさせる。薄く目蓋を閉じて、恭しく。高尾の唇はひどく冷たくて、俺はそれに言いようの知れぬ恐怖を感じた。おかしな話だ。高尾の敬愛を示す行為に鳥肌がたってしまった、だなんて。高尾はいつもの昼休みと同じように、俺の後ろの席に座ってただぼんやりとくだらないことを呟いただけだというのに。気まぐれにその言葉を零しただけだというのに。
——気まぐれ、そう、気まぐれだ。
話題が無くなったからなんていう単純な理由から生まれた、単なる思い付き。けして根拠も序論もそして結論すらない適当な高尾らしい軽薄な思いつき。どうせこいつは放課後には自分が言った言葉を忘れているだろうし、覚えようとする努力もないのだ。だから、そう。その言葉は別に何の意味もないはずだ。
「神様はたった一人しか愛せないからな。人間の中でとびきり才能のある、見込みのある奴しか愛せない。だから俺みてーな凡人がお前と結ばれちまったら、きっと天罰が下る」
「……そんなの、迷信だ。そもそも神なんて、いないのだよ」
「いるよ。いないって言いながら、真ちゃんはおは朝っていう神様みたいな存在を信じてるじゃん。説得力ないぜー、それ」
あははと快活に笑う高尾からは先ほどの冷え切った何かは一切感じられない。しかし数秒前の鋭い眼差しを前にしていた俺としてはそれは気味が悪くさえあって、ただ動揺を悟られぬように対処するだけで精一杯だった。あれだけ鳴るなと念じていたはずの昼休み終了のチャイムがやけに遠く感じるほど、時間という概念が希薄になっている。
突然、高尾の短い黒髪がふわふわと揺れた。春の風が教室に吹き込んできたのだ。花粉も黄沙も飛んでいるというのに、一体誰が窓を開けたのだろうか。生温い風にわずかに目を閉じてみれば、ちかりと太陽の光が瞬いた。
喧騒の向こう、窓を隔てた向こう側に広がる真っ青な空——そして高く昇っている黄色に光る太陽。心地よいその景色を背景に、高尾は俺へと向いていた。逆光のため高尾の表情は影となっており、こちらからは窺いにくい。
「真ちゃん」
普段大きな声で喋っているというのに、なぜか高尾は小声で俺の名前を呼んだ。まるで“神様”にバレないためだとでもいうかのように、密やかに息をする。そして滑らかな指先で俺の両手を掬いあげた。伝わってきた温度はやはり低く、春風の方がよっぽどあたたかく思えた。
奴の銀色に光る瞳が俺をとらえ、指が手首をぎゅっと締め付ける。そこに痛みは無く真綿で締めつけられるような柔らかさがあった。ついと視線をやると、高尾は穏やかに笑んでいる。
「……俺はこれから、どうしたもんかねぇ」
何がだ、と聞き返すことすら出来ないほど——再び俺は高尾に恐怖していた。掴まれている手首がじんと痺れ、通っていたはずの血が止まってしまうような、そのまま手首から先が腐り落ちてしまいそうな。現実味のない妄想が俺の脳裏に広がってゆく。
動けなくなった俺を心底愛おしそうに見つめ、高尾はぐいと俺を自分の方へと引き寄せた。本来ならばそのまま奴の鼻先にまで引き寄せられてしまいそうな力だったが、間にある机がそれを阻む。がたん、と教室内に一際大きな音が響いたが、クラスメイト達は気にも留めていないようだった。手を伸ばせばすぐに届くはずの喧騒は、春風のように手の内をすり抜けてしまう。
「神様の話だよ」
「……お前が言う“神様”のことか?」
「うん。その神様のこと」
高尾は笑っていた。
ほんの少し眉尻が下がっていたが、それでも喜びの方が大きいのか口元がほころんでいる。にきび一つない綺麗な頬に俺の指を導き、慈しむようにその感触を確かめた。同時に、指先よりは温かい奴の体温が俺にも伝わってくる。
言葉一つ零さず俺の指先を愛する姿に、俺は何も言えずに乾いた唇で生温い空気を食む。この状況が夢であって欲しいと強く強く望みながら、次に放たれる奴の言葉を待った。どうか次の言葉は、普段通りのおちゃらけたものであって欲しい、と。どうか、どうか。
「……どうしようね、真ちゃん」
高尾は繰り返し、俺に問いかけた。
答えがわかっているくせに、何も知らない顔をして、俺に問いかけた。
「俺はそろそろ、神様に殺されちゃうかもね」
■それを恋とよばないで(、いつか殺されてしまうわ)
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結ばれちゃいけないなーって感じてるけど、それでも罰を食らいながら生きていくのもまぁありかなって考えてる高尾君と、自身を傷つけてまで自分と生きていこうとする高尾君の執着心とか嫉妬とかその他諸々にぞっとする緑間君の昼休憩のお話