BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

ジェノ→→(←サイ)  甘い ( No.642 )
日時: 2013/04/06 01:37
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: QGJGVn1c)

 その瞬間まで俺はお前に「俺のことが好きなんてのはただの刷り込み、それは恋なんかじゃない」と師としてきちんと教えてやるつもりだったんだ。いつもみたいにお前の話をそらすんじゃなくて、真正面から違うってことを理解させてやろうって、面倒くさがりの俺には珍しく考えていたんだ。
(なのに、お前が、こんなに嬉しそうな顔をしているから)
 喉の奥に引っ込んでしまった言葉はなかなか出ようとしてくれない。「やめろ」も「ちがう」も、どっちの言葉もお前の嬉しそうな顔を前にすると形を潜めてしまう。
 無機質な金属が、肌を伝うコードの形が、お前のシャツ越しに伝わる。普段はぞっとするほどの冷たさを孕んだ双眸が、柔らかい光を灯し俺へと向けられていた。鉄面皮だと思っていたのに表情は本当に幸せそうで、俺を抱きしめる腕もどこか優しくて。なぁ、何でお前はそんな風に笑えるの、って聞いてみてもいいんだろうか。

「……あの、聞こえますか、先生」

 喜びだけで目の前が染まっている阿呆弟子は、師匠が今どんな気持ちなのかを探ろうともせず、誇らしげに自身の胸へと俺の手を導く。抱きしめられていた俺はようやくまともに酸素を吸うことが出来たが、それも束の間、阿呆弟子にさらに強く抱きしめられる。
 抗議の声をあげようとして、手のひらに伝わる振動に気付く。けして大きな主張をしない、耳をよく澄ましてみなければ聞こえないほどの、小さな音。とくとく、とくとく。化け物になってしまった俺ですら、その音は身近なものだ。
 ——嗚呼。もしかして、この音は。

「俺の心臓、ドキドキしてますか?」
「…………ああ」

 褒めて欲しそうに、わずかに頬を紅潮させてそう聞かれる。ジェノスの黒く透き通った瞳を前に、俺は視線を逸らすことも出来ずに素直に頷いた。
 するとジェノスは心底ほっとしたのか、堪えていた何かをふっと解く。
「先生」
「……んだよ。何かよく知らねーけど、終わったなら離せ」
「はい、すみません」

 やがて、胸に宛がっていた俺の手を自分の頬に添えた。何だかそんなことをされると妙に気恥ずかしくて(抱きしめられてるのに羞恥心もくそもないはずなんだが)、おい、と小さく叱咤する。しかし日ごろ俺に従順なはずのこいつは珍しく俺の命令に背き、俺の手のひらの温度を確かめるようにじっと目を閉じていた。
 おい、そんな顔してんじゃねえよ、と思い切り銀髪を殴ってやろうと拳を構えたところで、再度「先生」と呟く。「だから何だ」と素っ気無い返事をすると、ジェノスは穏やかに目を細め、笑った。


「やはり、この思いは恋です」
「……あー」


 こっちが躊躇うほどいい笑顔でそんなこと言うなよ、この野郎——胸中で俺が溜め息をついたことなんて、きっとこいつは知る由もないだろう。











■イノセントガールは恋を知る、









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一撃男たのしい
ジェノサイだけどサイジェノもかわいい