BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- Re: 【色々】Hello,Microcosmos!【短編】 ( No.643 )
- 日時: 2013/04/14 02:34
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: eNPK8IuO)
売春婦みたいやなぁ————なんて草薙の言葉は冗談にしても笑えなくて、俺は舐めるように飲んでいたターキーを一度に呷った。ぬるい温度を孕んだ酒はそれでも喉を滑り落ちると胃の中でかっかと燃え、まるで俺自身が燃えているような錯覚に陥る。
ふと視線をやると、長い金髪のかつらを被り、丁寧にルージュをひいた見慣れた顔に出会う。女と呼ぶには体の節々はごつごつとしていて、男と呼ぶには少々整いすぎる顔と白い肌をしている。こいつも変な酒癖を持ってんなぁ、とまだ酔いきれていない俺はぼんやりと思う。
「安心しろ、女には見えねェ」
「えー、つれへんわ尊。ほら見てみぃ、脚とか腕も綺麗にしたんやで。なぁ、ちょっとはムラムラせぇへんの? 別に触ってもええよ?」
「酔っ払いのおっさん相手にムラムラも何もあるか、アホ」
「おっさんって……ひどいなあ、尊……」
しゅんと肩を落とす草薙は本当に傷ついたようで、小麦色の瞳をうるうると潤ませている。日頃泣くことのない分、こうやって酒が入ったときには崩れやすいのかもしれない。「わかったわかった」とおざなりな返事をし、新しい酒瓶を開ける。
瓶自体が凝ったデザインをしているためか、栓はいつものように力任せに開けようとしてもなかなか開かなかった。飲み口が二羽の鳥のようになっているこのデザインは、とにかく強い酒なら何でもいい、酒瓶なんてどうでもいいという俺の嗜好から大きく外れている。しかし酒を一種の美術品のように捉えている草薙にしてみればこの瓶は特別なものらしく「ちょ、尊、あんま力入れなや。お前の馬鹿力じゃ壊れるやろ」と慌てた声を出した。
草薙はおぼつかない足取りで戸棚の方に歩み寄ると、のろのろとした動作で大きな鍵のようなものを持ってきた。照明の下で金に光るそれは、どうやら栓抜きらしい。
「これな、この瓶開けるためだけに作られた栓抜きなんやで。世界中どこ探しても見つからん、この瓶のためだけに存在しとる……いわば、鍵みたいなもんや」
「……まどろっこしいことしなきゃ飲めねェ酒なんて、意味ねェだろ」
「あはは! 確かになぁ、尊にとっちゃそうかもしれんわなぁ」
俺の呟いた言葉に草薙は赤い目元をゆるゆるとほころばせた。寸分の狂いもなくひかれたルージュがやけに鮮やかに見えて、俺は視線を逃がす。胸元に零れる作り物の金髪も、伏し目がちな長い睫毛も。全てが草薙なようで草薙じゃないように見えて、混乱する。
だが、きっとこんな俺の胸の内なんて筒抜けなんだろう。そっぽを向く俺を、草薙は瓶を開けることで見ていない振りをしていた。
「ほんまになぁ。お互いがお互いの為の存在を認められとる、ってのはええなぁ……神秘的や」
「思考まで女々しくなっちまったのか、テメェは」
「違うわアホ、単なる酔っ払いの戯言や。聞き流さんかい」
草薙があまりにも憂いを帯びた表情をしているので、俺は嘲ることしか出来なかった。
コポ、と炭酸が抜けた音と共にようやく瓶の栓が開いた。瓶の中ではライムグリーンに光っていたはずの液体は、グラスに注がれると同時に落ち着いたアクアブルーへと変わっていく。「面白いやろ」と草薙が柔らかく微笑んでいた。しゅわしゅわとグラスの中ではじけていく炭酸に、草薙は手早く真っ赤なチェリーを落とす。
「……いらねェ」
「そんなん言わんと。こういうのは雰囲気が大事なんや」
苦笑しながら、赤が加わりより鮮やかになったグラスをこちらへと差し出してくる。それを受け取り、ぐっと一口呷ると、口内に強い炭酸とフルーツ系の甘酸っぱさが広がった。甘酸っぱいだけかと思いきや、濃厚なアルコールの苦味とも甘みともとれぬ独特な感じが、後からぎゅうと舌の奥に残る。
「…………うまい」
掠れた声で言ってやると、草薙の双眸は今にも泣き出しそうに歪んだ。ごてごてとマスカラで飾り付けられた奥の瞳が、ようやく本来の色を取り戻す。
「さよか」
切なそうに、だがどこか嬉しげに応えた草薙の頬は、薄っすらと桃色に染まっていた。そんなこいつの姿は、まぁ、どう足掻いても売春婦には見えねェな————なんて、俺はグラスを傾けながら一人低く笑った。
■マイガール・マイメイデン
(売春婦と呼ぶには、君の恋は純粋過ぎた)
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自分は汚れててきたないって思ってる出雲さんとこいつ純粋すぎてやばいんじゃねーのって考える尊さんのみこいず……み こ い ず (強調)
てか最近タイトル尽きてきた