BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■教えてなんてあげない ( No.663 )
日時: 2013/05/12 12:12
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: eNPK8IuO)
プロフ: ありがちなタイトルだなとか思ってない/黒火♀









 しとしとと降っている雨は朝から止みそうにもなくて、どんよりとした灰色の空は見るだけで僕の気持ちを重たくさせる。火神さんはといえば、こうしてじとじととした空気の中、狭い一本の傘に僕と二人で収まっているというのにそんな様子はまったく見せない。
 今年の五月は肌寒い。雨が降ると気温はさらに下がる。まだまだ長袖が必要だな、と思い隣の火神さんを見やると、彼女は半袖のTシャツで「暑ィなー」とぼやいていた。
 ほどよく引き締まった二の腕が眩しい。高く結われてあるポニーテールは時折吹く風に揺れ、見ていて涼しげである。……いや、寒いぐらいなんですけどね、僕は。
「……火神さんは機嫌良さそうですね、今日は雨が降ってるのに」
 僕と同じ目線にある横顔は、あれだけ練習したというのに爛々と輝いている。僕の声は雨音に掻き消されなかったのか、火神さんが「ん?」とこちらを一瞥した。
「んー、そうだなぁ。別にあたし、雨は嫌いじゃねーし」
「雨って、それだけで嫌になりませんか? 洗濯物は乾かないし、空気はじめじめするし……外を出歩くのにも一苦労ですよ」
「アメリカは日本みたいに梅雨ってのがないから、お前らが雨を嫌なのいまいち実感わかねーんだけどなぁ……最近は傘とか可愛いのあるし、逆に楽しいぐらいんじゃねーの?」
「雨が楽しい人なんて、極少数派の意見だと思いますよ」
「ふーん。変だなー日本って」
 そう言い火神さんが伸びをする。その拍子にセーラー服が大きく捲れ上がり、薄っすらと腹筋の浮いた腹が見えた。「ちゃんと下に何か着ないと、衛生的に悪いですよ」と少し渋い顔をすると、火神さんはうげぇ、と舌を出して応える。黒子はあたしの父さんか、っての。小さく呟かれた言葉には幼さが滲んでいて、思わず笑ってしまった。
 僕が持つ傘は大きめのものだが、それでも高校生二人で入ると少し窮屈だ。俗にいう相合傘をしている訳だが、お互いの間には色気も何もない。欲しいわけじゃないけど、仮にも恋人同士なんだから、少しは触れる肩とか近い目線とかに何かを感じ取って欲しいものだ。

「……火神さんはアメリカ育ちだからわからないと思いますが……純日本人の僕からしてみたら、これから梅雨がくるのかと思うと憂鬱でなりませんよ」

 溜め息がちに言うと、火神さんはきょとんとした顔をした。

「そんなもんか?」
「ええ、そんなもんです」

 火神さんの問いに対して素直に首肯する。
 すると火神さんは「へー」と心底驚いた顔をし、傘の骨を何気なく指先で押し上げた。視界が広がり、雨粒のひとつひとつまで見えるようになる。火神さんは「よく降るよなぁ」と感心したように言う。

「俺はむしろ、嬉しいぐらいなんだけどな」
「何故ですか?」
「だって、雨が降るたびにお前とこうやって帰れるじゃん」

 口角をあげ、少しも照れた様子もなくそう笑った。直球な彼女の言葉に面食らった僕は、傘を取りこぼしてしまいそうになったが、何とか顔を背けることで動揺を悟られずに済む。反応がないことが気になったのか、火神さんが俯く僕の顔を覗き込む。

「んだよ黒子、急に黙っちまって。腹でも痛いのか?」
「…………いいえ、別に、そういうのではないです」

 あなたのせいですよ——とはさすがに言えなくて、僕は曖昧に笑ってみせた。









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甘いピャァアアアアアアアア
はらいたい