BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 【色々】 トロイメライの墜落 【短編】 ( No.688 )
日時: 2013/06/21 01:42
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: U3CBWc3a)
プロフ: きついこととひどいこと言ってる すみません

「保健室の女王になってるわよ」

 なんて言われてしまった日の一週間後だった。
 何だかもうこれ以上学校にいたくなくて「先生あたし早退していいですか」と保健室に特攻した。先生も最早何を言うまいと諦めたのか、呆れたような顔を隠しもせずに「じゃあ担任の先生に言ってきなさい」と一言のみをくれた。よかった、と安堵してしまう自分はだらけ切っているなと思う。実際に体調不良という名の熱中症だったのだから、まぁしょうがない、別にサボった訳じゃない。これは正当な理由だ。
 別に女王になんてなりたくてなってる訳じゃないし、クラスに居辛いだの勉強が難しいからだのそういう理由じゃない。何となく、だるいから、だ。それに頭痛や胃痛が伴うからこそ理由になる。
 最近学校をサボりがちになっている。学校にいても面倒な授業は生理痛ということにしてサボってしまう自分がいる。素敵な女性たちにどんだけ長い生理だ、生理痛なめんなよと腹パンされてしまいそうだ。自分が女だということをこれほど楽に思ったことはない、と夏なのに冬用の毛布と熱い湯たんぽを持たせてくる先生を恨みながらふと考えた。



///



「××さんはクラスのムードメーカーみたいな存在だけど、それはあなたにちゃんと合ってますか?」

 担任との二者面談。そんなことを言われた。体調を崩しがちなのと、授業中ぐーすか寝てるのが原因だろうか。一年の頃は何も言われなかったはずなのに——いやそもそも二者面談をしていない、確か一年の頃は面談するのが面倒で最後まで逃げ切った気がする——どんなルートを通ればそういう質問が飛び出してくるのだろうか。疑問に思う。

「合ってますよー! クラスのみんなほんまに優しいし、私としてはちょー騒ぎがいがあります!」

 笑顔でVサインを作り、応えた。馬鹿じゃないのと内心毒づいたことを先生はわかってくれただろうか。私が合っていないと応えたときの先生の顔を見てみたいような衝動に駆られたが、さりげなく模試の結果への話へと切り替えた。



///


 目ざわり、という言葉がやけに耳の奥に残っている。
 ××は声が通るよね、とよく言われるから多分そのせいだ。プラスすぐ騒ぐ。すぐテンション高くなる、周りが見えなくなる。そのせいで、彼女らは怒ったんだと思うけど。でもどうでもいい彼女たちに怒られても「へー」としか思えなかった。

「××が目の前できゃーきゃー騒がれてすごい目ざわりっ」「うわぁー、Nちゃん目ざわりとか言いすぎぃ」「授業ぐらい静かに出来んのん?」「てかさぁ、Yちゃんらに先生めっちゃ言われすぎてて可哀想よねぇ」「よねー、あそこまで言う必要ないじゃんねぇ」「Hちゃんとかまじ可哀想ーだって部屋の中でMがうるさいからって外で勉強してたのに、そこに××がいたからうるさいしー」「ほんまよぉ」

 そう愚痴を吐く彼女たちが心底気持ち悪く思った。同時に、私だからそんなこと言うんだろうなぁ、と軽蔑めいた視線を送ってしまった。
 気持ち悪い。
 派手な子の前ではその汚い口を閉じてばかりのその性根が気持ち悪い。散々私が口にするネタに授業中便乗し笑ってきたのに自分たちが輪に入れないときだけそうして責める身勝手さが気持ち悪い。何を言っても言い返さない私だけにあえて暴言を吐くその頭の良さが気持ち悪い。たった一人じゃ私に何も言えないその姿が気持ち悪い。そのくせ私が派手な子といると後で妬みを浴びせてくる醜さが気持ち悪い。
 何より、仲がいいことを理由に何でもしていいのだと勘違いするその精神が、気持ち悪い。
 あまりの気持ち悪さに、久しぶりに自分の責任とキャラを丸投げして暴言を吐きそうになった。だからお前らは嫌われてんだよ。珍しく、酷すぎる罵倒をしそうになった。



///


「君とは、ずっと一緒にいたいぐらいは、好きです」

 なんて手紙を誕生日に貰った。異性からじゃなく、同性から。多分そんな手紙を貰ったのは、最近私が彼女を避けているからである。彼女は寂しがりやだ。たくさん持ってるくせに、それは私の代わりになるはずなのに、私を求めてくれている。それが嬉しくて幸せで大事にしなくちゃならないことだとは理解している。
 でも、駄目だ。誰かの一番になることは怖い。

「君があたしのこと嫌いなんじゃないかと……」

 彼女がラインで、初めて彼女の方から話しかけてきてくれたことがあった。初めてがそんな内容って何だか皮肉なもんだなと思いながら、不自然にならないように間を空けて返信をした。「そんな訳ないじゃん!! 誰だそんなこと言ったやつ! 安心して、もうめちゃめちゃラブだから! あ、お尻揉もうか?!」「いいえ結構です」彼女は私の言葉に安心してくれたらしく、後の会話はいつもと同じように弾けたものだった。

「頭なでていいこいいこしようか? 落ち着くよ?」
「いいです。それより、撫でさせろください」
「え……私の股間を?」
「頭をだよ」

 頭を撫でたい、と彼女が言ったから。私は次の日休む予定を中途変更し、昼から自転車を漕いで学校へと向かった。彼女は休んでいたはずの私を見て目を丸くしたから、私は笑顔で「約束守るためだけに学校来た!」と彼女に飛びついた。彼女は平気そうな顔をしながら、でも嬉しそうに天然パーマが少しかかった私の髪の毛をわしゃわしゃとなでてくれた。
 彼女が欲しいだけ、私はきっと、彼女にあげられるんだろうけど。でも仮に彼女が私を一番にしようとしたら、私は今までの彼女との友好関係をぶっ壊してでも、それから逃げ出してしまいそうだ。
 一番にするのもされるのも、私は怖くてしょうがない。
 その先にあるものが、何だか見えてしまうような気がするから。



///



「いつでも来ていいよ」

 幼馴染に、そういわれた。
 学校を辞めた引きこもりがちで泣き虫の幼馴染。高校を辞めた彼女に会える機会なんてそうそうなくて、わざわざ私が会いにいかなければ会うことは出来ない。だけどラインはするから、疎遠にはなっていない。
 何だか全てが悲しくて嫌で死にたくてたまらなくて、でもごたごたの起きている両親にも毎日ご飯を作ってくれる祖父母にも友人たちにも愚痴りたくなくて、泣きたくてたまらないのに泣きたくて苦しくて苦しくて頭をがりがりとひっかいて。
 そんな時に、幼馴染にラインで話しかけた。別に辛い内容とか出来事を書くとかはしていない。「学校めんどい」を奇声三割増で伝えただけだ。なのに幼馴染はそう返信してくれた。「辛くなったらまた家においで、いつでも来ていいよ」よくもまぁこのとち狂った文章でそこまで読めたな、とちょっと感動した。
 幼馴染は変われないから好きだ。彼女は自分から変わろうとしても変われずにいるから、そこが好きだ。今は私にしかその目を向けられないから好きだ。きっと私以外、あまり彼女のことを気にかけてはいないのだろう。この前幼馴染のお母さんに会ったら、嬉しそうに話をしてくれた。

「今度幼馴染ちゃんと××がカラオケいくなら、うちも誘ってやーうちも久しぶりに幼馴染ちゃんに会いたい!」

 私を目障りと言った優等生に、そんな風に微笑まれた。ちなみに私は仮に幼馴染と遊ぶとしても、優等生を誘う気は一切ない。幼馴染のあの視線は、もう誰にも傷つけさせたくない。





***
酷いこと考えてるとか幼馴染にはよく言われます