BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■沙上の夢喰い少女1 ( No.697 )
日時: 2013/07/17 00:36
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: vmYCeH12)
プロフ: リヴァハン

 きっと、誰かに救われることを望んでいた。

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 きらきらり。目蓋の裏に瞬いた星を、瞬きと共に噛み締める。言い訳をするように呟いたリヴァイの言葉を受け、ブーゲンビリアの花は静かに頭を垂れていた。血に濡れそぼった花びらは重力に逆らうことをしなかった。
 一日前には給水塔だったはずの建物は巨人との戦闘によりすっかり崩壊してしまっていて、供給する場所を無くした水道管からは先ほどから水が止まらなかった。散々使った刃をその水で軽く洗い、肉片がとれたところで一度空を切り、滴を払いのける。改めて思うが、今回もひどい戦闘だった。血まみれのマントを見て、溜め息と共に夜空を見上げた。
 エルヴィンが数分前にあげた、迷い星のような緑の煙。夜空をバックに、その緑色は勝利の勲章としてはやけに物悲しく瞳に映った。

(何が勝利だ、糞野郎)

 掠れた喉の奥で誰に向けるでもなく舌打ちをする。無意識のうちに、リヴァイの負傷した左手には力がこもる。(俺たちは、勝ってすらいねェだろうが……これだけ被害を出しておいて、何が勝利だ、畜生)苦々しい面持ちで、苛立ちの捌け口を探すように、手元の刃を空へとさまよわせた。
 住人たちの居場所も奪われて。赤ん坊が喜んで読んでいた、あんな小さい絵本すら巨人たちの胃の中に収められて。来年の春生まれてくるはずだった赤ん坊を宿した妊婦は、ぶちぶちと上半身と下半身を千切られながら、あの大きな口の中に放り込まれた。もうコウノトリなんて、この荒れ果てた土地にやってきてはくれないだろう——リヴァイはぼんやりとそんなことを考えていた。
 その時だった。ガサガサ、と近くの木の葉が盛大に揺れた。

「……やあ、どうやら今回も私たちだけみたいだね」

 ひょこん、と木の上から現れたのは、リヴァイのよく見知った顔だった。戦闘で乱れたぼさぼさの黒髪に、きゅるきゅるとよく動く大きな瞳。そしてその好奇心大盛な瞳を覆うように取り付けている、ごついゴーグル。同期であるハンジ・ゾエだった。
 ハンジは返事もしないリヴァイに気を悪くする様子もなく、器用にも高い木の上から大きく跳躍し、膝を痛めないように飛び降りてみせた。大道芸師のような身軽さにリヴァイはわずかに濁った眼を見開いたが、すぐに興味を失い視線は血まみれの足元へと向かう。疲れた様子のリヴァイに「おや」とハンジは意外そうに言った。

「なんだいその顔、あなたらしくもない」
「……」
「悪い夢を見た後のような顔だ。どうしたの、もしかしてようやく人類最強も巨人との戦闘に怯えを感じるようになったの? それは進化というべきなのか退化というべきなのか、一体どちらなのかなあ。人間味のないあなたにとっては進化なんだろうけど、実際、あなたの両肩には全人類の希望が乗っかっちゃってるわけだし、そういう意味でいうならあなたは人類最強としては弱さを得てしまったわけで——」
「——ピーピーとうるせェ、ハンジ。どうでもいい、さっさと撤収するぞ」
「おやおや、せっかく面白い研究が始まりそうだったのに。あなたは何かとわたしの好奇心を殺してしまうところがあるよね、好奇心は猫を殺すけど、人間は殺さないのに」
「そうだな。好奇心はテメェを殺さねえ。殺すのは巨人共か、今お前の目の前にいる俺かだ、選べ」
「はは、究極の選択ってやつだね、そりゃあ!」

 ハンジがけたけたと大笑いするのを無視し、リヴァイは指笛を使い馬を呼び寄せた。巨人との戦闘でどこかへ逃げていた二頭の馬たちは、震えながらもリヴァイたちの元へと戻ってきた。
 馬は二頭とも怯えている様子はあるものの、どこかを怪我しているようではない。リヴァイは近くに転がっていた仲間の遺品や、千切れて落ちている腕などを丁寧に自身のマントで拾い集めた。馬たちは血の臭いにぴくりと体を震わせたが、小さく嘶くだけで終わった。
 腕を拾い集めていくリヴァイを手伝いもせずに、ハンジは木に寄りかかって眺めていた。しかし、リヴァイはハンジも馬に乗るように指示したところで「ねえ」と気まぐれに声をあげた。

「リヴァイ。もしもあなたがずっと悪い夢を見てるっていうなら、私はその悪夢を全部食べてあげるよ」

 突然過ぎる言葉にリヴァイは眉をしかめる。「別に夢なんて見てねェ」と、もっと別のことを言うはずだったくせに、それだけの反論しか出来なかった。
 ハンジは「そうかい」とそれ以上深く話そうとはせずに、鼻歌混じりで馬に飛び乗った。そして馬の柔らかな毛を優しく撫でながら、愉快そうにひっそりと呟いた。

「痛いの痛いの飛んでいけ、ぐらいはしてあげるよ? もちろん、私の歌声付きでね」
「……テメェは巨人の口ン中で讃美歌でも歌ってる方がお似合いだ」
 








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ミカエレよりエレミカ好きです