BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

Re: 【色々】 トロイメライの墜落 【短編】 ( No.699 )
日時: 2013/07/18 22:13
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: vmYCeH12)
プロフ: キス表現ぽいぽい!!!!ぽい!!!





「誕生日おめでとう俺!! ってことで一発やろうぜ真ちゃん!!」


 ついに脳みそが壊れましたか、と完全に鷹の目から外れているであろう僕はその言葉には沈黙で返し、ずずっと最愛のバニラシェーキをストロー伝いに吸い込んだ。
 シェーキと同じぐらい最愛の相棒である火神君は、今朝から氷室さんに

「タイガ……日本は案外怖いところだな……キメラのようなマスクを被った男たちが部屋に無理矢理入ってきて子供を襲うんだから……あんまり恐ろしいから、つい俺も昔のようにちょっとやんちゃしちゃったよ」

 なんていう電話をもらったので、

 「タツヤそれ違う!! それはNAMAHAGEだタツヤ!! そいついい奴だから、な!!」

 ……と慌てて東北の方へと旅立ってしまった。あのエレガントヤンキー。
 おかげさまで今日は一日暇な僕でしたが、何とまぁそんな僕の元に一通のメールが。
 差出人はなんとあのツンデレ眼鏡で有名な緑間君で、内容は「高尾の誕生日プレゼントを選ぶのに付き合って欲しいのだよ……(´・ω・`)」というものだっ————って、え? アンタまだプレゼント渡してなかったんですか? 誕生日過ぎましたよ、ねえ?————そう思ったのは僕だけではないだろう。

 




 兎にも角にも、そんな理由で僕は緑間君とマジバの窓寄りの席でほのぼのと高尾君へのプレゼントを選んでいたのですが(ちなみに緑間君は初めから今この瞬間まで耳まで真っ赤でした)、そんな状況の中に話題の中心人物であった高尾君がやってきてしまいました。
 そうとう急いで来たのか、はぁはぁと息が荒く、額には薄っすらと汗をかいています。
 けして緑間君に欲情しているからという理由でないと願いたいのですが、先ほどの言葉から察するに緑間君に欲情パターンしか想像できません。

「……た、高尾……どうしてここに?」
「俺の真ちゃんセンサーが反応したから!(ソッ」
「そう言いながらさりげなく自分の股間に手を添えるのはやめてもらえますか高尾君、シェーキがまずくなります」
「あれ、黒子じゃーん! どしたの、こんなとこで」
「それはこっちの台詞ですよ……」

 呆れたように、むしろ軽蔑の意味を込めて軽く睨む。
 すると、高尾君は人懐こい笑みを浮かべたまま「あぁ、そういやそうだったな」と僕へと自分の携帯電話を差し出した。

「ほら、黄瀬からメールもらっちゃってさー。俺もちょっと気になって、エース様の為に休日出勤? みたいな?」
「べ、別に俺はお前に出勤して欲しいなんて思ってないのだよ!」
「緑間君そこ論点ずれてます」

 突然の恋人の登場に混乱している緑間君にさりげなくツッコミを入れながらも、目だけは携帯に向けておく。
 へぇ。

 『緑間っちと黒子っちが二人で歩いてたっス><もしかしたら浮気されてるかもしれない……俺のお腹の子供のこと……黒子っち……忘れちゃったのかな(;ω;`』——ですか。

 何根も葉もないこと言ってるんでしょうかねあのモデル。何故突っ込む側の君に赤ちゃんが出来ることになってるんだまじアイツしばき倒(以下略)。

 ……とまぁ、僕が明日黄瀬君に何をしようかと思案しているところに、緑間君がおずおずと声をかけてきた。

「……あのだな、黒子……」
「ん? あ、そうですね。愛しの高尾君がせっかく来てくれたんですし、早く帰りたいですよね。それじゃ、僕はこの辺で」
「ごめんな黒子ー、じゃーなー!」
「だ、誰もそういうことを言ってるわけじゃないのだよ!! おい黒子、逃げるな話を聞け!」

 ——いや、逃げますけどね?

 ぎゃんぎゃんと喚く緑間君を尻目に、僕は手を振り僕の退場を願っていたであろう高尾君をちらりと見やった。高尾君はいつもの笑顔だったけど、内心は穏やかじゃないんでしょうね。右手、握りすぎて震えてましたよ鷹の目さん。
 席を立ち、空になったシェーキの容器を持つ。さて退場しようとした瞬間「あっ」と僕は今さら思い出したような演技をしてみせた。

「そういえば緑間君」
「……何なのだよ」
「僕、今日君に付き合わされた分の報酬……というか御褒美、まだ貰ってません」
「!? シェーキを二つも奢ってやったのだよ!」
「君と高尾君の惚気話に、それだけで足りるとでも?」

 溜め息をつきつつ言ってやれば、緑間君は再び「うっ」と言葉に詰まりぽぽぽと頬に朱がさし始める。やれやれ、これだからバカップルは。頭痛がしてきそうですよ、火神君。今頃氷室さんに正座をさせ説教をしているだろう相棒に心中で呟く。
 高尾君はやっぱり、にこにこ営業スマイルで僕と緑間君のやり取りを静観している。その肌一枚の向こうには、ぐつぐつと煮えたぎるほどの嫉妬が隠されているんでしょうに、嗚呼、なんて気丈に振舞う人。尊敬の念さえ感じますが、今はそれで少しだけ遊ばせてもらいましょうか。

「……で、何が望みなのだよ。シェーキが後何本欲しい?」
「いえ。シェーキはもう結構です。あまり飲みすぎるとカントクに怒られてしまいますし————ですので、こっちを頂きますね」
「こっち?」

 純粋な緑間君は、僕の言葉に首を傾げた。その隙を見逃さずに、すいっと腰を屈め、緑間君と丁度同じぐらいの高さになる。
 同じ目線になったところで、キスをした。

「……という訳で失礼しますね、二人とも」
「えっ、ちょっ、黒子お前なに平然とキスして平然と帰ろうとしてんのお前」
「はぁ。すみません、あんまり感情が表に出ないものですから」
「そういうことを言ってるんじゃないんだけど!?」
「さて、それでは本当に帰らせてもらいますね。実は僕、まだ課題終わってないんですよ」
「話聞いてる!?」

 今にも掴みかかられそうだったので、高尾君の叫びを華麗にスルーし僕は出口へと足早に向かった。緑間君はといえば未だフリーズしているようで、ぽかーんと形のよい唇が半開きになっていた。
 はぁ、こんな変人のどこがいいんでしょうか、高尾君は。本人たちに聞かれたら八つ裂きにされそうな感想を抱いた。


「……あ、最後に一つだけ、緑間君」


 くるり、余裕たっぷりというようにと振り返る。僕は出来る限り優しい声色で、さらに(高尾君のようには出来ないが)柔らかい笑顔を作ると、言葉の置き土産を残した。


「君は二十一日に、たった百二十円のおしるこしか高尾君にプレゼントできなかったのを悔しく思って本日きちんとした贈り物をしようとしたみたいですが……高尾君は君のことが大好きなので、まぁ、何ですか……別にそんな風にたくさん悩んで新しいものを買わなくても、十分幸せだったと思いますよ」


 ——じゃあ、失礼しますね。
 言葉を続けすぎたせいで、多少息が辛い。ふわふわとした足取りでマジバから出て行くと、背後から「黒子ォォォォ!!」という羞恥心に溢れた緑間君の叫びが聞こえてきた。はは、面白い。








■十一月二十一日の君へ。





 あのバカップルに、どうか幸あれ。
 珍しく鼻歌でも歌いたい気分になりながら、僕は「誕生日おめでとうございました」と小さく笑った。








***

高尾誕生日のときのあれっスわ〜←黄瀬語