BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■沙上の夢喰い少女2 ( No.702 )
日時: 2013/07/23 00:27
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: vmYCeH12)
プロフ: リヴァハン

*





「花が咲いたよ、リヴァイ」

 報告書と共に提出された言葉には疲れがにじんでいた。
 それまで書類を睨んでいたリヴァイは、徹夜続きで強張った瞳をぎょろりと目の前のハンジへと向ける。こちらも疲れているのか、目が血走っている。「いつもより凶悪な面構えだね」とハンジはひび割れたゴーグルの向こうの双眸を細めた。

「ほら。この前の壁外調査で私たちが戦った地区があるだろ。そこの給水塔が三週間前にようやく建て直されてね。さっきあそこから帰ってきたところだけど、また綺麗なブーゲンビリアの花が咲いていたよ」
「……花なんていちいち覚えちゃいねェ」
「夜明けになると、太陽の光が花びらに透かして淡い紫色に見えるんだ。あの給水塔の地下にある水脈は、ずいぶんと良質なものでね。下の方にある村では作物が豊富にとれていた」
「…………」
「反応すらしてくれないなんて、相当疲れているのかな」

 無言を突き通すリヴァイに怒りを示すどころか、ハンジは優しげな笑みを頬に称えていた。
 ハンジの頭はその場で適当にしたのか雑に包帯が巻かれており、包帯にはうっすらと血が染みている。また利き手である右腕も三角巾で吊るされており、見ている側としては痛々しい。調査帰りですぐリヴァイの元へとやってきたようで、身に着けている隊服もあちらこちら擦り切れてしまっている。
 
「疲れてるなら、寝てしまえばいいのに」

 負傷していない左手を大きく広げ、ハンジはため息交じりに呟いた。体中にこびりついた血が、塵のようになって机の上に落ちる。潔癖症であるリヴァイはそれを不愉快そうに一睨みするが、やはり何も言わない。
 はぁ、と落胆した様子でリヴァイは眉間の皺をやんわりと指先でもみほぐした。顔色は芳しく無く、その動作が余計にリヴァイの心労をうかがわせる。やがて、書き途中の書類に再び視線を落とし、のろのろとペン先を走らせ始めた。
 書類の上で躍る字は、リヴァイのことをよく知らない新兵たちならいつもと同じものだと思うだろう。しかし数々の死闘を共に生き抜いてきたハンジにはその違いがわかっていた。

「……字が震えてるよ、リヴァイ」

 へらり、と困ったようにハンジが笑う。細かい傷のついた指先を不自由そうに伸ばし、しかめっ面の輪郭をやんわりと撫でた。頬を伝う指先は、深い隈を刻んでいる彼の琥珀色の瞳へと続く。

「眠そうだ」
「…………早く、着替えてこい」
「はいはい。私が着替えてくるまでに、その顔どうにかしておいてよ」

 ようやく絞り出した言葉を一笑し、ハンジはやはり笑う。



「今のあなた、とても傷ついた顔してるよ」







*




(私があなたに望むのは思い出の話さ。
 やっすい酒でも飲み交わしながら、くたびれたシャツ一枚でぼんやりとソファに寄り添うんだ。別に甘ったるい空気なんて私は求めない。真っ暗な部屋の中で、ランプをひとつだけつけてさ。アルコールでぼんやりした頭で、思ったことを全部言葉にしてみるんだよ。思ったことを言いたいだけ言って、そして今まであったことを全部噛み砕いて飲み干す。きっと一晩だけじゃ私たちの思い出は飲み干せないだろう。夜明けまでかかるかもしれない。
 それでもいいんだ。一晩、二晩……何度夜を越したって構わない。目覚めたその先に夜明けがあるのなら、私は何度でもあなたと思い出を語り合おう)

 真っ暗闇の中でそんなことを考える。
 右手を怪我しているからといって、左手が使えないわけではない。飲みかけの酒を持ち、中身を傾け嚥下する。食堂からかっぱらってきた安酒だが、酔うだけなら十分なものだった。切れてちりちりと痛む唇を無理にぬぐい、もう一度酒瓶を傾ける。
 飲み口から唇を離し、息をついた。吐き出した息は酒臭くて、我ながら笑えてしまった。

「あっはは!」

 あまりに愉快で、隣に眠っている気難しい友人がいることも忘れてけたけたと声をあげる。悪夢でも見ているのだろうか、眠っているくせに眉間には深いふかい皺が刻まれている。すっかり癖になってしまっているのかもしれない。
 ぐい、と人差し指で眉間を押してみると、うぐうぐと小さい唸り声が聞こえた。寝つきは良いくせに、眠りの質が悪いのだ。寝ても寝ても夢ばかり見て、この男は休むことを知らない。夢の中でもストレスを貯めこんでいる。現実と同じように、もしくは、それ以上に。

「ああ、輪郭を失ってしまった君だけに子守歌を!」

 小さくそう叫び、かわいらしい眉間にキスを一つ落とした。
 酒臭さに気づいたのか、かたく瞑っていた瞼がゆるゆると開いていく。「……あっ、やべェ」思わずこぼれた言葉に対し、目覚めも良い人類最強は容赦なく拳を振り上げた。






****

何がしたいんだろうささめは……
とりあえずハンジさんの利き手とか全部捏造