BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)
- ■ドロップキック! ( No.716 )
- 日時: 2013/10/06 15:04
- 名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: yMcAY8PJ)
- プロフ: 宛←Aちゃん もしも二人が付き合い始めたら
カナちゃんと違って、アーちゃんは前髪を丁寧に整えている。日に透けてブラウンに光る、黒髪。ゲームプレイ中は上半身に触れてはいけない、という暗黙の了解をあえて破り、アーちゃんの前髪を指先で弄ぶ。当然のごとくアーちゃんは顔を背けることでそれを回避した。あくまでも視線はテレビに向けたままで。私の方なんて一瞥もせず。
——ねえ、そろそろ手を繋ごうよ、キスでもしようよ、アーちゃん。
視線で訴えかけてみるも、そもそも視線が合わないんだから意味がない。私とアーちゃんはいとこ同士だ。今さら恋人らしいことをするのは照れくさいのかもしれない(いや、アーちゃんに限ってあり得ないか)。でも私はアーちゃんのことを心から愛しているし、法律はいとこ同士の結婚を許可している。世間も許してくれてるのだ、ちょっとぐらいいちゃついてもいいじゃない。
「……ねー、アーちゃん」
「何」
「私はアーちゃんのなんなの?」
「いとこでしょ、勿論」
「そりゃそーだけどぉ……」
別にそんな当たり前の返事を求めていた訳じゃない。言葉になんかしなくても今の私のモードぐらい分かるでしょう。たった二人きりのリビング、御昼ご飯も食べてアーちゃんにひざまくらもしてもらって、外はいいお天気。
何を望んでるか、なんて仮にも恋する乙女に言わせないで欲しい。アーちゃんが誰のことを好きにならないのはわかってる。でも、こういうときに目の前に自分を好きだというカノジョがいて、しかも二人きりで何もしないってのは別の意味で男子失格だと思うのだ。
(もしかして、足りない?)
アーちゃんが私に手を出してくれない理由。写真を撮ってもらうときみたいに、上目遣いしてもアーちゃんは落ちてくれない。作戦をミスったかなと思うけど、私に限ってそんなことはありえない。アーちゃんを手に入れるために私が毎日一瞬一瞬をどれだけ慎重に生きていると思っているのだ。
ねえアーちゃん。あなたはボーイフレンド、ただの、私のボーイフレンドなんだよ。いつもみたいに行儀宜しい少年みたいにしてなくていいんだよ。
(いつもはびっくりするぐらい察しがいいんだから、こういう時にだって気付いてよ。私の気持ちは沸騰寸前なんだから!)
テレビ内のキャラクターが武器である大きな剣を振り回すと、ドラゴンと鳥の合いの子みたいなモンスターが奇声をあげて倒れた。「YouareWIN!!」という金色の文字が音楽と共に画面上に躍った。アーちゃんはふっ、と口元だけで笑う。ゲームが大得意なアーちゃんすら手こずった相手だったのだろう。
その笑顔が、私に向いてくれたらいいのに。コントローラーを握る手が、私の頭を優しく撫でてくれたらいいのに。ぷう、と頬を膨らませてみるも効果はない。
「アーちゃん、そろそろゲーム、飽きない?」
「んー……これ新作だからさっさとやっちゃいたい」
「私、アーちゃんのゲーム見るの好きだけど……それ何時間してるの?同じソフトじゃない」
「同じソフトでも、主人公のキャラを変えるとストーリーが変わるんだよ。まだ四人しかしてないから、後三人やる」
——リモコンを握るよりも勇者育てるよりも——まずはふたりのレベルを上げてみようとはならないんだろうか、この男は。
ゲームに夢中な姿を見て、思わず「私を見てよ!」と喚き散らしたくなる。しかしアーちゃんはそんな風に自分の趣味を邪魔するような馬鹿女は嫌いだ。私はすべてを理解したような顔をし「ふーん」と頷いておいた。そして、五人目のキャラクターを攻略し始めた。
期待薄かな、と私は諦めてアーちゃんの肉づきの薄い膝へと頭を転がす。アーちゃんの攻略本とかどっかに落ちてないかな、アーちゃんの攻略本とかあったら、私どれだけ投資しても買うのに。でもこの意味不明な男の攻略本ときたら、辞書ぐらい分厚いに決まっている。こんなに可愛い、他の男どもがこぞって群がる美しい「A」という少女が、膝元にいるというのに。ゲームのグラフィックに夢中な男は、きっとこの男ぐらいだ。……ああ、弟であるカナちゃんもかな。
アーちゃんは私がアーちゃんが好きってことを知ってる。でもどれぐらい好きかはきっと知らない。カナちゃんに嫉妬するぐらいアーちゃんが好きだ。世界中のアーちゃん以外の男が全員芋に見えるぐらいアーちゃんを愛している。子どものころからの間違いとかじゃなく、これは正真正銘の純愛だ。狂おしい程の恋心だ。沸騰寸前、なんかじゃない。燃え盛る私の恋の炎。恋の炎は、いつか私自身を焼き尽くし、滅ぼすかもしれない。
でもね、それでもいいの。だって、私アーちゃんが大好きなんだもん。
ポン。突然、眉間に違和感。閉じていた両目を開くと、大きな手のひらが眼前にあった。「うぇ」」常に乙女らしさを心掛けている私には珍しく、間の抜けた声を発してしまう。
近すぎてよく見えないが、どうやらアーちゃんが人差し指で私の眉間をぐいぐいと押しているようだ。あまり力は入ってないけど、肉を揉み解されるような感覚はなんだかくすぐったい。
「…………あと十分したら、戸棚に母さんが買ってきた和菓子あるから。それまで大人しく待っときなさい」
「あ、あんこ入ったやつ?」
「うん。お前の好きなやつだよ。だからいじけなさんな」
その言葉に反論しようと、アーちゃんの方を睨む、と。
(うわ、あぁ、不覚!)
アーちゃんは——ほんとにいつもじっくりアーちゃんを見つめている私しかわかんないぐらいだけど——笑っていた。
しかも結構上機嫌なほうだ、この笑みは。アーちゃんみたいな美形、いやもちろん顔で選んでるわけじゃないけど、とにかくそんなにも綺麗な顔のアーちゃんなのだ。笑ったらそりゃあ殺傷力が普段の五倍にも十倍にも跳ね上がる!
ぽう、と無意識の内に頬が熱くなってしまった。
アーちゃん、あなたはボーイフレンド、ただのボーイフレンド。いつも行儀宜し過ぎていて、据え膳を供えても供えるだけ無駄になっちゃう、普通の男の子っぽくない男の子。
でも今はボーイフレンド。私のボーイフレンドなんだよ。アーちゃんにとっちゃ恋人未満だろうけど、私はいつだって待ってるよ。
コントローラーを持つその手が、いつか私の方へと伸びてくる事を。
すましたその横顔に心の中で、ドロップキックを決めてみた!
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基本的にここに直接書き込むので、毛筆でたとえるなら一発書きしてるようなもんなので文章おかしかったり誤字あったりしますけど気にしないで行間を読んでくれたら嬉しいです
最近よくわかんないの書いてる気がする
曲/ドロップキック(天野月子)