BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

■(好きに、なれない) ( No.729 )
日時: 2013/09/01 23:08
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: 73BX/oE4)
プロフ: 性格の悪い黒と高緑







「……一つ、たった一つだけ勘違いすんなよ、黒子」

 君は言う。
 真夏の暑い日に陽光を浴び、額から流れる汗を拭おうなんて素振りも見せず、かと言って涼しい顔をしている訳でもなく、ただその言葉を僕に理解させるためだけにそこに立ち尽くしている。頬にへばり付いた黒髪はやはり汗でじっとりと濡れていて、緩められたシャツの襟の奥では浮き出た鎖骨が呼吸と共に上下している。急いで僕を追いかけてきたのだろう。いつもの余裕たっぷりの彼とは違い、呼吸も視線も乱れている。

「緑間はお前の苦しみをたぶん理解してやれると思うよ。お前が中学の頃得られなかったバスケの喜びも、友達としての優しさも、お前が望む分くれてやると思う。……だけどな、黒子」

 違うんだよ、と彼は乾いた声でもごもごと告げた。
 ——嗚呼、そんな風に追いかけて来なくても良かったのに、と僕は目を細めその姿を見つめる。きっと、君は緑間君に『忘れ物をしてしまった』なんて嘘をついてあの場から走ってきたんだろう。僕と同族である君のことは手に取るようにわかる。

「だからって、お前がそうして過去の傷を見せびらかすのは違うんじゃねェの。僕はこれだけ傷つきました、ってわざわざ言うのは、何か違うだろ」
「……君にはそんな風に聞こえたんですね」
「真ちゃんには効果ばっちしだったぜ、あれ。さっきも俺と話してる間ずっと眉間に皺寄って、こーんな難しい顔してたし。全く、考え過ぎるっつーのも問題があるよな」

 やれやれだぜ、と某有名漫画のキャラクターのように肩をすくめてみせる高尾君。おどけたように振る舞うも、鷹の目さながら僕のことを探るような視線は変わらない。僕は君の瞳があまり好きではない。ひどく冷たいような、無機質な感じがする。
 「それで」と僕は話をさっさと終わらせるために、出来る限り冷静な声を発した。

「それだけのことを忠告するために、高尾君はここに戻ってきたんですか? わざわざ、緑間君に嘘をついて?」
「おいおい、そんな言い方すんなって。別に俺は黒子に″言うべきこと″を忘れて戻ってきたんだから、忘れ物をしたっつーのも意味合いは同じだろー?」
「そうですね。まぁ、似たようなものですが」
「そうそう。お前に忠告すんのも、似たようなもんだ」

 笑顔を見せる高尾君に応えるように、口元を緩めた。高尾君と心の底から笑いあえるというのはなかなかない。こうして、他の人に不仲であることがバレないよう、表面上だけ取り繕うことしか出来ない。
 普段の余裕さを取り戻した君を傍目に、僕は君の大好きなあの人のことを考える。気難しくて、潔癖で、誰よりも正しくあろうとする融通の利かない人。どうして君みたいな人間が、あんな人を好きになれたのか。それだけはいくらたっても理解できなかった。

「……高尾君は」
「ん? 俺がどーした?」
「緑間君を前にして、なぜ自分の傷を見せびらかさないんですか。君と緑間君は、もうとっくに相棒と呼べる仲なのに。今、もし君が昔、キセキに受けた傷を緑間君に打ち明けたら……きっと優しい彼は、真摯に君の傷を癒してくれるはずでしょう」

 そっちの方がずっと楽なはずでしょう、とはさすがに言えなかった。
 だって緑間君は天才なのだ。あのキセキの世代のナンバーワンシューター。現在も秀徳の要としてチームを回している。そんな彼の隣で——凡人として立っているのは、どれほどの絶望か。嫉妬か。青峰君の相棒だった僕には、その苦しみがわかる。

「……あぁ、そういうことな」

 高尾君の表情はたいして変わらなかった。本音をついたそれに嫌悪感も、気まずさも感じていない。
 やがて、額に浮いた汗を手の甲で拭い、何でもないように言った。


「そんなん簡単だろ。みっともねーからだよ」



 君がそう言い終えた瞬間、僕は、君の口元に歪んだ笑みを浮かぶのを見た。くく、と自嘲気味に歪んだ唇はそれ以上の苦しみも弱音も零さず、沈黙する。そうして君は、僕に灰色の、軽蔑の眼差しを送る。貪欲さと嫉妬と苦しみと悲しみと殺意が込められた——敗者だけが持つあの瞳で。

(嗚呼、そういうことか)

 彼と同じ敗者であった僕は、その瞳が持つ色を知っていた。






//


 夏は終わりゆく。今の時間帯、一昨日はまだ夕日のオレンジで空が塗りつぶされていたのに、今日は東の方が薄いブルーに染まりつつある。道行く人々も前よりは少ない。
 近くにあるベンチに腰かけた状態で、薄く目を閉じた。瞼の裏側に、先ほどの君の瞳が蘇る。傷を見せびらかすことも出来ず、同情を恐れ、嫉妬を押し殺してきたあの形容し難い瞳。あれを前にした時、僕は剥き出しにしていた自身の傷がひどく傷むのを感じた。君の双眸が、傷の奥底にある何かを見透かしたようにわずかに揺れるのを、僕は感じていた。
 くすり、と思わず笑みが零れる。晴れやかな、というより、くだらないコントを観たときのような愉快な気持ち。
 発見した喜びというよりも、再確認による安堵の思い。


「……高尾君。やっぱり僕は、君のことが——」
















***

傷を見せびらかして、そんで慰めてもらって甘えたいなという気持ちはあって、それを他人がしても別に「しょうがないよね」とか「よく頑張ったね」ってなる。許されるとも思う。でも、「傷なんて見せびらかしたくない」とか言いながら無意識に見せびらかせて相手の同情誘うのはなぁ、と思う。ささめはそのタイプです
黒子君の性格悪くなった
あと青峰マイエンジェル誕生日おめでとう